第三幕 第十場
わたしはいま、マコトと名乗った男に、自分の事情を説明し終えたところだ。
「……なるほど」マコトは言った。「だいたいのことはわかったよ。つまりはきみは、ミステリー愛好会のメンバーとして、シンデレラ事件のドキュメンタリー映画を撮影しにきた。そして停電の際に、きみは頭を打ち記憶喪失に。ほかのメンバーである久保田は死亡。残りひとりは顔もわからない神谷だけ。だからぼくのことを、その神谷と勘ちがいしていたわけなんだな」
「ええ、そうなの」わたしは手にしているビデオカメラに、視線を落とした。「ほんとうなら映像を見せたかったんだけど、このビデオカメラはクレイジー石原さんの物で、わたしが持っていたビデオカメラは蝶野が持っているから……」
「その蝶野とかいう銃を持った男は刑事だと名乗ったんだな?」
「うん」わたしはうなずく。「けどそれを証明できる物は持っていなかったし、挙動も怪しかった。だからそいつから逃げてきたの」
「いったい何者なんだ?」マコトは思案気な表情になる。「おかげでこの状況がさらに混沌と化している。グリム王国に閉じ込められ、さらには電波障害で助けも呼べない。最悪だよ」
「やっぱり電話はつながらないの?」
「何度試したが無理だった」
「そんな……」わたしはがくりと肩を落とした。「それじゃあ、どうすればいいの?」
「だいじょうぶだアカネ」マコトはそう言って、わたしの肩に左手を置いた。「何があってもきみのことは、絶対にぼくが命がけで守るから安心して」
マコトの心強いことばに励まされるも、そのせいでとある疑問が浮かんでしまう。
「ねえ、マコトさん」わたしは探るような口調になる。「もしかしてわたしたち恋人同士だったの?」
「……ぼくたちは幼なじみだった」否定も肯定もしない。「同じボロアポートに住む住人同士で、きみが中学生になってそこからいなくなるまでずっといっしょだった。そのあときみがどうなったかは知らない。けれどきみのことは、ずっと大切に想っていたよ」
「けどマコトさん」わたしは自分の肩に置かれた、マコトの左手に視線を落とす。「その左手の薬指にある指輪はもしかして——」
「これはただの飾りさ」そう言って、わたしのことばをさえぎる。
マコトは指輪を抜くと、こちらに向かってやさしく微笑んだ。




