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第三幕 第九場

 いちばん最初の動画ファイルを再生した。ビデオカメラの液晶ディスプレイ画面には、二十代半ばと思われる女の姿が映し出された。その女は肩まで伸びた髪をゆるやかに波立たせた髪型をしており、その目鼻立ちの整った顔によく似合っていた。格好は薄手のカーディガンを羽織り、白のロングスカートを穿いている。その特徴から、死体となって倒れていた女でまちがいない。


 どうやら女は鏡に映った自分の姿を撮影しているらしく、その右手にはビデオカメラが掲げられていた。


 女にっこりと笑いながら、ゆっくりと左手を顔の高さまであげる。すると薬指にはめられた指輪を強調するかのように、何度も手のひらを返す。


「わたしたち婚約しちゃいました」


 女がさもうれしそうに言うと、画面が動き出す。すると画面には、ホテルとおぼしき部屋の一室が映し出された。その部屋の様子が、ミステリー愛好会が宿泊していた部屋の造りと酷似していることから、おそらくはフェアリーリゾート社指定の同じホテルだとみてまちがいない。


 画面がゆっくりと部屋の奥へ向かっていくと、ベッドで眠る寝間着姿の男が現れた。男は枕に顔を埋めるようにしてうつぶせになっているため、短髪であること以外、どんな人物かわからない。


「ダーリン起きて」女が呼びかけた。


 男はうめく声を漏らすだけで、起きあがろうとはしない。


「ダーリンもうお昼すぎてるわよ!」女は叫んだ。「早く起きないとバスに遅れるわよ」


 男はゆっくりと体を起こすと、その目をこすりはじめた。


「やっと起きたわねダーリン」


「ダーリン?」男は目をこするのをやめ、こちらに寝ぼけまなこの顔を向けた。「何を言っているの『カオリ』」


「もうやだダーリンったら、寝ぼけちゃって」カオリと呼ばれた女がそう言うと、画面端から指輪をはめた手が映り込む。「わたしたち婚約したでしょう。もう忘れたのマコト」


「……ああ、そういうこと」マコトと呼ばれた男は、あくびをしながら言う。「ちゃんとおぼえていますよ」


「早く顔を洗って出発の準備をしてよ。あと左手の薬指に指輪をはめるのを忘れないでよね、ダーリン」


「わかっていますよ」


 マコトがけだるそうにそう返事すると、動画はそこで終了した。

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