第一幕 第三場
森の中を進みだしてどれくらいの時間が経っただろうか。三十分、一時間、もしかするとそれ以上かもしれない。痛みと疲労のせいで時間の感覚が狂っている。
左足が捻挫しているため、それを引きずるようにして、ゆっくりとしか歩けないのがもどかしかった。これでは町にたどり着く頃には夜があけてしまうかもしれない。やはり事故現場で偶然にも車が通りかかり、奇跡的にこちらに気づくほうに賭けたほうがよかったのでは?
そんなことを考えながら歩いていると不意に森が途切れ、道路へと出た。だがしかしどこにもあかりは見当たらない。見まわしてみると、道路に設置されている外灯に明かりは灯っていなかった。
「明かりはついていないのか……」
別に驚くことではない、と思った。過疎地では修理点検がおろそかになることはよくあることだ。だが何気なく道路へと視線を落としたとき、その考えはすぐさま消え去った。
「なんだこれは?」
自然と目が釘付けになる。目の前にある道路にはいくつもの亀裂が走り、そこから草が生えてぼろぼろの状態だ。思わず道路のつづく先へと懐中電灯の明かりとともに視線を向けた。驚くべきことにその状態はずっとつづいている。まるでこの道路は修繕する必要がないと切り捨てられたかのようだ。
「……この道路は使われていないのか?」
あたりに視線を走らせる。道路はその両脇を森に挟まれるようにしてまっすぐにのびている。歩道沿いには落ち葉が積もり、雑草が錆び付いたガードレルを隠すまでに育っている。そのせいか廃墟の趣があり、夜のせいもあってか不気味な雰囲気を醸し出していた。
もしかするとこの道路はほんとうに使用されていないのでは、と頭のなかで思った瞬間、突如として現れた明かりがおれの目をくらませた。おそらくは車のハイビームであろう。暗闇に慣れきっていた自分の目には強烈な目くらましだ。
たじろぎつつも、なんとか助けを求めようと、目を手で隠しながら叫び声をあげた。だが無情にも車は自分を通り越して、闇へと消えて行った。
「ちくしょう、もどってこいよ!」
おれは車が消え去った道路の先をにらみつけて叫んだ。その咆哮はむなしく響くだけで、車がふたたび現れることはなかった。