第三幕 第六場
わたしは男に手を引かれるまま走りつづけ、風車小屋にたどり着いた。そして男がドアを開けると、その男とともに体を滑り込ませるようにして中へとはいる。
男はわたしの手を離すとドアを閉じた。わたしは風車小屋の中に怪しい人物がいないかどか探るべく、ビデオカメラを構えた。するとその瞬間、突然明るい光があたりを包み、目をくらませる。
「まぶしい」思わずわたしは目を細めた。
どうやら男が懐中電灯を使ってあたりを探っている。風車小屋の中は整然としており、わたしたち以外にだれかがいる様子はない。
「明かりをつけたら危険よ」わたしは忠告する。
「安心してよ」男は言った。「ここの窓は高い。上にさえ照らさなければ、明かりが漏れることはない」
男はしばしのあいだ、念入りにあたりを調べはじめた。わたしはその様子を見守る。男は自分より少しばかり年上と思われる若者で、眉目秀麗な顔立ちに短髪の髪型がよく似合っており、ブルージーンズにワイシャツというカジュアルな格好だ。
男はひと通り調べ終えたらしく、わたしに向き直る。「ここはだいじょうぶそうだ。ひとまずは落ち着けるよアカネ」そこでほっと息をつく。「よかったよ。停電が起きてから、ずっときみのことを心配していたんだ」
「……わたしのことを心配してくれてたの?」
「当然だろ」
そのことばに思わずうるっとしてしまう。「ありがとう」
男が心配そうにわたしの顔をのぞき込む。「もしかして……泣いているのかい?」
「こんなときにごめん」わたしは浮き出た涙をぬぐう。「でもいろいろあってこわかったの。だからこうしてわたしのことを知っている人がそばにいてくれて、それが心強くて安心したら思わず……」
「その気持ちわかるよ。けどまだ安心はできない、この窮地を脱するまでは。だから単刀直入に訊くよアカネ」男はわたしの顔をまっすぐに見据える。「長谷川ヒロユキ氏の孫娘はいまどこにいる?」
「へっ?」わたしは疑問符を頭の上に浮かべた。「どうしてそんなことをわたしに訊くの?」
「だってきみがシンデレラなんだろ」そう言った男の顔は真剣そのもので、ふざけているようには見えない。
「わたしが……シンデレラ?」
そのことばの意味を理解するのに、しばしの時間を要した。




