第三幕 第四場
わたしはビデオカメラの画面越しに、久保田の死体を呆然と見つめる。暗視撮影モードのその画面では、久保田の金髪はわからないが、その耳につけられたピアスと服装から本人だと確認できる。
わたしはあたりを見まわす。風車小屋の見える位置関係などから、クレイジー石原のビデオカメラで目撃した、ウルフに殺された男は久保田でまちがいないようだ。
「ビデオで観た殺された男は久保田だった……」わたしの脳裏に疑問がふと浮かんだ。「どうしてこいつはウルフに近づいた?」
ビデオで観た久保田の能天気そうな性格から、興味本位で近づいたのかもしれない。あるいは石原と同じで、何かしらのどっきりだと勘ちがいでもしたのかもしれない。
いずれにしろ原因はわからないが、いまはそんなことを考えている暇はない。わたしはためらいながらも久保田の死体を探ると、スマートフォンを見つけた。
「だめだ……ロックされている」
わたしはがっくりと肩を落とした。絶望的な状況だ。久保田が死んだことで、ツアー客のなかでゆいつ信用できるミステリー研究会のメンバーふたりのうち、そのひとりを失ってしまった。
「あとは神谷だけだ。彼をさがさなくちゃ——」わたしはそう言いかけて、とある重大な事実に気づく。「……あれ、そういえば神谷ってどんな顔をしているの?」
いまだ記憶喪失のためその顔は思い出せない。ビデオにもほとんど映ってはおらず、たとえ映っていたとしても帽子をかぶった後ろ姿だけだ。さらに最悪なことに、ひと言もしゃべっていないので、その声もわからない。
「だめだ神谷の顔が思い出せない……」
わたしが悲嘆に暮れていると、不意に物音が聞こえてきた。思わずどきっとし、そちらにビデオカメラを向ける。すると男性と思われる人影がこちらへと急速に近づいてくる。あれはだれだ?
「何をしているアカネ」男が声をひそめて言った。「早く隠れろ」
そのことばに、わたしは安堵する。自分の名前を知っている。おそらくこの男は神谷でまちがいないだろう。
「ねえ、聞いてよ」わたしは言った。「久保田が殺され——」
「話はあとだ」男がわたしのことばをさえぎる。「とにかくいまは隠れるんだ。とりあえず風車小屋に来るんだ」
男が近づきわたしの手を取る。わたしは男に手を引かれるようにして、風車小屋へと向かって走り出した。




