幕間 その二
「——だからこれは遺言であり、メッセージであり、罪の告白だ。だからしっかりとわたしの話を聞いてほしい……」
その望みどおり、ビデオカメラは長谷川ヒロユキの言動を記録していた。
「わたしは日本が高度経済成長期のまっただなかに生まれ、そして大人になってフェアリーリゾート社の一員として働くころには、日本はバブル経済で非常に豊かな時代だった。そんな時代だったからこそ、わたしは会社のために身をささげて懸命に働いてきた。働けば働くほど金は増え、どんどんと昇進していった。そしていくつものリゾート開発プロジェクトを手がけ、それを実現していったよ。何もかも順風満帆で、満ち足りた人生を歩んでいた。そんなときだったよ、彼女と出会ったのは」
長谷川は昔を懐かしむかのような顔つきになる。
「彼女の名前は佐々木エリナ。のちにわたしの妻になる運命の人だった。わたしは彼女に心奪われた。だからつきあいはじめ、恋人となったのだ」
長谷川はそこで咳き込むと、ゆっくりと口をぬぐった。
「彼女とはよくグリム王国へ行ったものだ。そこでよくわたしは自慢したよ、自分がこのテーマパーク建設にあたり、どれだけ貢献してきたかと。いま思えばつまらん男の自慢話だったと思う。けど彼女は笑って聞いてくれたんだ。そのせいで彼女を愛しいと思うようになり、結婚した。そして子供が生まれた……」
長谷川は目を閉じると、しばし黙考するかのように押し黙る。そしてふたたび目を開けたとき、その顔は喜びなのか悲しみなのかわからない、複雑な表情となっていた。
「名前はわたしたちの名前から取ってつけたよ。ヒロユキのユキにエリナのナ。だからユキナと名付けた。母親にとてもよく似たかわいい女の子だったよ。ユキナが成長し大きくなると、家族でよくグリム王国に行ったりもした。いま考えると、あのころがいちばん幸せな時期だったのかもしれない」
長谷川はそこで間を置く。
「だが日本経済のバブルがはじけると同時に、彼女は病気に冒されてしまい、長年苦しめられることになる。そして治療のかいもなく彼女は二十一世紀を迎えることなく亡くなってしまった。そして娘のユキナもわたしのもとから立ち去った……」
長谷川がむせび泣く声を漏らすと、浮き出た涙をぬぐった。ビデオカメラは視線をそらさず、その様子を見守りつづける。




