第二幕 第六場
つぎの動画ファイルを再生した。つまりは最後から二番目に撮影された映像だ。画面にはバスの車内の様子が映し出された。窓の外は暗く、おそらくはこれはグリム王国に向かっているバスの中だと思われ、その構図から後部座席から撮影されているようだ。
「どうもみなさん、クレイジー石原です」画面がまわりだし石原の顔が映りだした。「いまわたしはグリム王国見学ツアー夜の部に参加するためバスに乗り込み、ホテルを出発したところです」
画面が動きだし、先ほどと同じように後部座席の位置から、バスの車内を見渡すように映像を映し出している。乗客はまばらで、あいている席がいくつもある。
「それにしても人が少ないですね」石原が言った。「昼の部はバス二台で人がたくさんいたのに、夜の部はバス一台でこれだけしか、お客さんはいません」
画面がいちばん前にある、乗客がすわる椅子とは逆向きに設置されたガイド席へとズームアップする。するとそこにすわるツアーガイドである小森ミクの胸元が、画面いっぱいに大写しになる。
「ガイドさんのおっぱい大きいですね」
画面が徐々にズームバックする。すると画面にはミステリー愛好会のメンバー三人の姿が。だが前を向いているので顔は見えない。
「あれは大学生かな」
さらにズームバックする。するとこんどはコスプレをしたふたりの女性の後ろ姿が映り込んだ。ふたりとも帽子をかぶっている。
「あのレイヤーさんは、昼間に話したふたり組の女の子ですね」
ズームバックがつづくと、カップルと思われる男女が映る。
「あれは恋人同士でしょうか、うらやましい限りです」
さらに画面には中年の男の後ろ姿が映り込んだ。
「あのこわそうなおじさんも乗っていたんだ。ちょっといやだな」
画面がだんだんともとの構図に近づくと、女性が席から立ちあがり荷物棚をいじる姿が映り込んだ。四十前後と思われるその女性は年齢の割にはスタイルがとてもよく、細身のジーンズを穿いており、それに合わせてデニムのジャケットを羽織っている。頭には帽子を目深にかぶり、さらにはマスクをしているため顔はよくわからない。
「なんかめちゃくちゃエロい、熟女オーラを感じますね」
ズームバックが終わり、画面が最初の構図と同じになる。
「お客は自分を含めて『十人』。グリム王国にはガイドさんを含めて『十一』人で行くことになるようです」
石原がそう告げると、動画はそこで終了した。




