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第二幕 第二場

「何よ……これ?」わたしは眼前の光景に思わずつぶやいた。


「何がどうなっている?」蝶野はきびしい口調で言った。「いったいだれがこんなまねを!」


 いまわたしたちは目の前にある門を見て、心底当惑していた。なぜならば、その両扉の取っ手は太い鎖でぐるぐるに巻かれ、頑丈そうな大きな南京錠がかけられていたからだ。


 わたしたちは扉に歩み寄ると、それをあけようとする。だが巻かれた鎖がそれを阻んだ。なんとか南京錠をはずせないかと試してみたが、びくともしない。


「閉じ込め……られたの?」わたしは自分の置かれた状況が複雑化したことで、理解力が追いつかなくなってしまった。「何がなんだかわからない。これってどういうことなの?」


「だれかが、おれたちをここに閉じ込めたんだ」蝶野が語気鋭く言う。「しかも扉は内側から閉ざされている。ってことは、おれたちを閉じ込めたくそ野郎は、このグリム王国内にいるはずだ」


「いったいだれが、なんのために?」


「さあ、わからない。けどそいつを見つけ出さないと、ここからは出られないってことだよ」蝶野はそこで舌打ちする。「ったく、つぎからつぎへとトラブルに見舞われる、最高の夜だぜ」


「どうしましょう?」


「当初の予定どおりだ。駐車場へは行けないが、出入り口はここだけだ。だからここに人が来るのを——」


 突然、蝶野ははっとした表情になると口をつぐんだ。わたしはそれを見て不安を募らせた。


「……どうしたんですか蝶野さん?」


「この状況がおかしい」


「はい」わたしは同意のうなずきを返した。「だれだか知りませんが、こんなふうに扉を使えなくするなんて——」


「そうじゃない!」蝶野がわたしのことばをさえぎる。「いや、それも当然おかしなことだが、だれもここに人が集まっていないのは、さらにおかしなことだ。それに静かすぎる」


 わたしは意味がわからず眉をひそめた。「それは、どういうことですか?」


「停電してかなりの時間が経過しているはずなのに、だれも騒ぎ立てる様子もなければ、ここにもどってくる人間もいない。ふつうなら騒ぎになったり、何かがおかしいと思って入り口にもどってきてもいいはず。なのにこの状況だ。どういうことだ……」


 言われてみればそうだ。「たしかにおかしいですね。こんなのってふつうじゃない」


「つまりは、ふつうじゃない事が起きている可能性がある」


「ふつうじゃない事って?」


「さあ、そこまではわからない」蝶野は肩をすくめる。「けど何かいやな予感がする。何者かは知らないが、ここまでしておれたちを、いやここにいる人たちを閉じ込めようとしている。正気の沙汰とは思えない」


 そのことばに、わたしはさらなる不安を募らせる。そのためか、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。いったいこのグリム王国で何が起きているの?


「……佐藤さん、閉じ込めたやつが何を考えて行動しているのかわからないが、一刻も早くこのグリム王国から脱出したほうがいいかもしれない」


「同感です。わたしもそうしたほうがいいと思います」


「だったら人を探そう。おそらくはここで待っていても、だれも現れない気がする」


 わたしはあたりを見まわし、人の気配を探った。広場は静寂に包まれており、だれかがいる様子はない。ためしに注意深く耳を澄ませてみるも、人の話し声や息づかいなどは聞こえてこなかった。


「蝶野さんの言うとおり、たしかにだれも来なさそうですね。みんなどうしちゃったんでしょうか?」


「たしかにその理由は気になるが、見つけ出せばわかることだ。とにかく急ごう」


 わたしたちはきびすを返すと、あてどなく歩きはじめる。いったいどこにいるのかわかりもしない、ツアー参加者たちを探して。これではまるで……。


「まるでかくれんぼだわ」わたしは自然とそうつぶやいていた。


「かくれんぼ?」蝶野が眉根を寄せた。「なんのことだ」


「あっ、いえ、その……」わたしは思わずことばを濁す。「いまのこの状況を考えたら、かくれんぼみたいだなって思ってしまって、それでつい。すみませんこんなときに、そんなこと考えて」


「言い得て妙だな。たしかにこの状況は、みなが身を潜めて隠れているように思える。だとしたらいったい何から……」蝶野はしばし間を置く。「いや、いまはそんなこと考えても意味はない。とにかくだれでもいいから、見つけ出そう」


「はい」わたしはうなずいた。


 わたしたちは人を探すため、グリム王国を探索しはじめた。そしてほどなくして、ツアー参加者のひとりを見つけ出すことになる。だがその人物がこの奇妙な状況を口で説明することはなかった。

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