幕間 その一
「それでは、はじめよう」老人が口を開いた。
ビデオカメラはボール型の椅子にすわる、その老人を微動だにせずに見つめた。老人の顔はやせこけており、体調が優れないように見えるが、その目には確固たる意思が宿っており、こちらに鋭い視線を据えている。
老人は白く薄くなった髪の毛を手で後ろに撫でつけると、着用していたガウンの胸元を正した。そして胸を張って姿勢を正す。それからゆっくりと息をつく。
「……そうだな。まず最初に自己紹介からはじめるとしよう。わたしの名前は『長谷川ヒロユキ』だ」
長谷川ヒロユキと名乗った老人は、そこでしばし間を置いた。
「わたしは以前フェアリーリゾート社の社長だったが、七年前のシンデレラ事件以来、体の調子を崩すようになり、いまではこのざまだよ」
長谷川は両手を軽く広げて、細くなった腕と体を強調する。
「だからあとのことはほかの者に後事を託し、わたしは社長を引退。いまはこうして老い先短い人生を、悔やみながら苦しんで生きている。いや、苦しみながら生きなければならないのだ。わたしはとんでもない罪人なのだから……」
長谷川は咳き込むと口をぬぐう。
「わたしは長い人生を送ってきた。その過程で取り返しのつかない過ちを犯してしまった。その結果がシンデレラ事件を引き起こしてしまったのだよ」
長谷川はこぶしを握りしめて震えさせる。
「わたしは贖罪するために、いろいろと手を尽くしたが、いまだにシンデレラも、わたしの孫とされている人物も名乗り出ていない。金や財産で動かないところを見ると、おそらくはわたしのことを恨んでいるのだろう」そこで弱々しく首を横に振る。「だがそれもしかたのないこと。わたしがしでかした過ちを考えれば……当然のことだ」
長谷川はこぶしを開くと、目に浮かび出た涙をぬぐう。
「おそらくはわたしはもう長くない。あの日以来、どんどんと体が悪くなっていく一方だ。たぶんこれはわたしに対しての罰なのだろう。わたしはそれを受け入れる。わたしはこのまま死ぬ。だからこれは遺言であり、メッセージであり、罪の告白だ。だからしっかりとわたしの話を聞いてほしい……」
ビデオカメラはその願いどおり、その様子を記録しつづける。




