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第一幕 第十八場

 つぎの動画ファイルを再生した。画面にはホテルの洋室らしき、整然とした部屋が映し出された。部屋の窓からは薄暗くなった外の風景がうっすらと見えている。


 部屋を見まわすかのように画面がゆっくりと動きはじめた。そして姿見の前にくると、その動きは止まる。姿見にはビデオカメラを持つ久保田の姿が映っている。久保田は鼻歌を口ずさみながら、自分の金髪の髪をいじりはじめた。


「今夜は楽しくなりそうですね」


 久保田が楽しげにビデオカメラをまわしていると、突然ドアが開く音が響いた。その音に久保田が反応してビデオカメラを動かすと、画面は部屋にはいってくる女の姿を捉えた。


 女は部屋の中央にあるテーブルに歩み寄ると、その上に置いてあったティッシュ箱から数枚ティッシュを抜き取る。そして赤くはらした自分の目をぬぐいはじめた。


「どうしたのさアカネ?」久保田が心配そうに問いかける。「もしかして泣いているの」


「泣いてないわよ」女が画面に一瞥をくれる。「花粉症でね、まだ時期じゃないけど、ここの場所が悪かったみたい」


「だいじょうぶなのか、そんな調子で。これから大事な時間だぜ」


「だいじょうぶよ。すぐに治まる」女はティッシュをゴミ箱に捨てると、椅子にかけてあった薄手のパーカーを手にする。「それよりも、神谷はどこに行ったの?」


「あいつならタバコを吸いに喫煙スペースに行ったよ。どうも落ち着かないらしい。顔に似合わず、ノミの心臓を持つ男だ」


「……そう、わかった」女はパーカを着用した。「それであんたは何をしているわけ久保田」画面に鋭い視線を向ける。「また遊んでいるの?」


「ちがうよ。夜の撮影に向けて動作チェックしてただけさ」


 久保田がそう言うと、一瞬で画面が緑一色の濃淡の世界へと変貌した。画面の様子から、どうやら暗視モードに切り替えたらしい。


「このとおり夜でもばっちり」久保田は話をつづける。「いつでもグリム王国見学ツアー夜の部に参加できるぜ」


「バッテリーの残量は?」


「えーとちょっと待って……残り少ないや」


「ならいつまでもいじってないで、充電しておいてちょうだ」


「了解しました」

 久保田がそう言うと、動画はそこで終了した。

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