第一幕 第十五場
つぎの動画ファイルを再生した。画面には人だかりの前に立つツアーガイドの女性の姿が映し出された。その背後には植物が這う大きな壁があり、そこにある門は大きく開かれている。その先には石畳の広場が小さく映っていた。
「それではこれからみなさんには、グリム王国に入園してもらいます」女性は拡声器を使用して言った。「ですがその前にいくつかの注意事項をお伝えしたいと思います」
女性は手に持つプリントの束に目を落とした。
「まずグリム王国は七年前の閉鎖の際に防犯対策のため、ここに見えています南側正面入り口以外の出入り口は、すべて物理的に封鎖されました。ですので帰りの時間になりましたら、この南側正面入り口を通ってこの集合場所である駐車場までお集りください」
女性はプリントをめくる。
「それから基本的にみなさんはグリム王国内において、その行動は自由です。ですが遊園地エリア内にある遊具については原則としてその中に立ち入らないようしてください。長年むき出しで放置されていたため劣化が激しく、非常に危険です。ですが安全な距離を保っての撮影などについては問題ありませんので、どうぞご自由になさってください」
さらに女性はプリントをめくる。
「グリム王国内の建物についてですが、グリュック城などの一部の人気施設を除いて、安全対策のためすべて施錠されて中にはいることはできませんので、あらかじめご了承ください。中にはいって見学できる建物については、さきほどみなさんにお渡ししたプリントにその一覧が記載されていますのでご確認ください」
女はプリントから目をあげると、一同を見まわす。
「以上で説明は終わりたいと思いますが、何かわからないことや、質問などはありますでしょうか?」
女性はしばしのあいだ待っていたが、だれかが手をあげたり、質問を口にする様子はない。
「わかりました。ではこれよりグリム王国への入園をはじめたいと思います。もしあとで質問ができた場合、または中で何か困った事が起きたり、ガイドが必要な場合はわたしのもとへ来てください。わたしは基本的にグリム王国の中央に位置する『ブレーメン広場』で待機しています」
女性は言い終えると、一同を率いて入り口へと向かいはじめる。すると動画はそこで終了した。




