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第一幕 第十四場

 つぎの動画ファイルを再生した。画面にはバスの後部座席窓側にすわる女が映し出された。女は窓ガラスを背にし、画面にまっすぐに視線を向けている。


「佐藤アカネです」女が言った。「いまわたしはグリム王国に向かうバスの中にいます。わたしたちミステリー愛好会は——」


 突然バスが大きく揺れ動いたらしく、そのため画面は激しくぶれてしまい、女は口をつぐんだ。


 女はため息を漏らすと、窓の外を一瞥する。「どうやらグリム王国までの道路は整備されてはいないようです。おそらくは閉園してから手を付けてないのでは、と思われます。そのせいでいまのように揺れがひどく、バス酔いしそうで——」


 ふたたびバスが揺れたらしく画面が乱れる。


「もういい、やめましょう」女はめんどくさそうに頭をかくと、首を横に振る。「これじゃあ撮影にならない。バスの中はカットで」


「おい神谷」久保田の声が聞こえてきた。「カメラをこっちに向けてくれ。『クレイジー石原』がいるぞ」


 画面がゆっくりと反転すると、金髪の男である久保田が後部座席の真ん中にすわっている姿が映し出された。久保田はそこから前を指差している。


「あれを見てよ」久保田が言った。「本物のクレイジー石原だぜ」


 画面がその指示に従い、指差された方へと動き出す。すると画面にはバス前方にある通路側の席にすわり、ビデオカメラを手にしている男の姿を捉えた。画面がズームアップすると、その男が丸刈りの中年男性だとわかった。その中年男性はとなりの席にすわる人物にビデオカメラを向けながらしゃべっている。だがこの位置からでは、だれとしゃべっているのかわからない。


「クレイジー石原って、いったいだれのこと?」女が訊いてきた。


「知らないのかよ、お笑い芸人だよ」久保田が答える。「おれらが子供の頃よくテレビに出てたじゃないか。知っているだろ?」


「知らないわよ。そんなに有名だったの?」


「有名か……」久保田はことばを濁した。「まあ、昔は人気があってよくテレビに出ていたけど、ここ最近はぱっとせずテレビへの露出もほとんどないんだよな。いまではああやってひとりで個人ロケをして、それをネットに投稿して細々と活動してるんだよね。ねえ、あとでサインもらいに行かない。おれファンだったんだよ」


「だめよ! 目的を忘れないで。遊びに来たんじゃないのよ」

 女がとがめるような口調でそう言うと、動画はそこで終了した。

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