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第一幕 第十三場

 つぎの動画ファイルを再生した。画面には野外駐車場と思われる場所で、そこに集まる人だかりが映し出された。画面の奥には二台のバスが見切れるようにして映り込んでいる。


 画面がズームバックしはじめた。すると画面に人だかりから少し離れた場所にいる女が映り込む。画面はその女に視線を据えると、ピントを合わせた。


「どうも佐藤アカネです」女が言った。「わたしたちミステリー愛好会はいま、グリム王国の見学ツアーに参加するべく、集合場所であるホテルの駐車場へとやってきたところです」そこでことばを切ると、背後にある人だかりを手で指し示す。「見てください。こんなにもたくさんの人たちが集まっています」


 画面が動き出し、ざっと眺めるかのように人だかりを映し出す。カップルとおぼしき腕を組み合う男女に、スマートフォンで電話の相手と楽しげにおしゃべりする人たち。カメラやビデオカメラで記念撮影をおこなう人などなど、たくさんの人が集まっている。そのなかにはコスプレをした集団がおり、この人だかりのなかでは異彩を放っていた。


「お集りのみなさん!」


 突然スピーカー越しの大きな声が響いた。すると人だかりをかきわけるようにして、拡声器を持ったツアーガイドと思われる女性が現れた。


「お待たせて申し訳ありませんでした」女性は拡声器越しにしゃべった。「バスの出発時間になりました。どうぞお乗りください」


 その合図で人だかりが動き出した。二台のバスへとつぎつぎと乗り込みはじめると、画面がふたたび女を映し出す。


「どうやら時間が来たようですね」女がにっこりと笑う。「それではわたしたちも乗り込む事にしましょう」


 女がバスに向かって歩き出すと、それに追従するように画面も動き出す。すると女の隣りに痩身の男が現れ、並んで歩きはじめた。その男は長髪の髪を金髪に染めあげており、耳にはいつくかのピアスをつけている。細身のデニムのハーフパンツを穿き、ぴっちりとしたTシャツを着ていた。そのため軽薄そうな印象を受ける。


「あのコスプレイヤーたち見た?」男は女に話しかけた。「よくあんな派手な格好できるよね。恥ずかしくないのかな」


「あんたも負けてないと思うけどね久保田」


 久保田と呼ばれたその男は、女にそう言われると、画面に向かって顔をしかめて肩をすくめてみせた。するとそこで動画は終了する。

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