序幕
※タイトルについての説明
タイトルは映画のブレア・ウイッチ・プロジェクトやREC、パラノーマル・アクティビティなどのビデオカメラ視点の映画のこをと指す『ファウンド・フッテージ』が由来です。そのためこの作品は複数のビデオカメラを観て、事件の謎を追っていく物語となっています。
ビデオカメラはただ静かに、じっと前を見つめている。三脚で固定されているため、身じろぎひとつもできない。そのためその画面に映し出されている映像にぶれは生じない。
いま画面には広々とした部屋が映し出されていた。いかにも金持ちが好みそうなモダンなインテリアの数々が並んでいる。中華料理店で使われるレンゲを、上から軽く押しつぶしたような形をした強化プラスチック製の寝椅子。その横には同じ強化プラスチック制で、色鮮やかなオレンジ色をした流線型の椅子がある。ほかにも球体を斜めに切り落とし、その中にすわれるようになっている足のついた巨大な椅子。さらには駅のホームで見かけるような形をした椅子が、色鮮やかな配色で壁際にずらり並んでいた。
そんな椅子たちの彩りを際立たせるかのように壁は明るく真っ白で、所々に絵が飾られている。それはモダンアートの絵画で、線や円で形作られる幾何学模様は抽象的で、見る人間の想像力によってその絵の解釈がことなる。
だが見ているのは人間ではなく、ビデオカメラだ。ビデオカメラは目の前にある光景をただ記録するだけ。画面には目の前で起きている真実だけを映し出している。そこにビデオカメラの意思は反映されることはない。所詮は機械なのだから。
しばらくするとビデオカメラはボール型の椅子に興味を持ったのか、そこへと視線を向ける。何度かズームアップとズームバックを繰り返し視点を微調整すると、椅子を画面いっぱいに映し出した。よほど気に入ったのか、微動だにせず見つめている。
ほどなくしてコツンコツンと何かが床を突くような音が聞こえてきたかと思うと、画面端から杖を手にした老人が登場した。茶色のガウンを羽織ったその老人は、ゆっくりとした動きで椅子に向かい、そして腰をおろす。
老人は体調が悪いのか、しばし息を喘がせていた。やがて息を整え終えると、こちらに視線を向けた。その表情は思案気で、何をしゃべればいいのか迷っているように思える。
老人は目をつむると深呼吸をはじめた。気持ちを落ち着かせるかのように何度か繰り返すと目を開けた。先ほどとはちがい、意を決したかのような顔つきになっている。
老人は口を開いた。「それでは、はじめよう——」