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第6話「レイアと力の封印」

 突然森の中に現れ、旅に同行したいというダークエルフの女の言葉にノエル達は驚いていた。

 ダークエルフの女戦士は、事情が呑み込めていない三人に向かって自分の過去を話し始めた。


*

 ダークエルフの女戦士は、名を「レイア」といった。

 レイアは十九の歳までこの森で盗賊に育てられていた。


「お前はまだ赤ん坊の頃にこの森に捨てられていたんだ。それを俺たちが拾って育ててやっている。有り難く思いな」


 レイアは幼い頃から盗賊達にそう聞かされて育ち、その言葉を信じて疑わなかった。レイアの周りにはレイアと同じダークエルフはおらず、人間の盗賊に育てられた彼女は、常に異端であり孤独だった。


 盗賊の仲間達に少しでも認めてもらおうと、レイアは盗賊たちの言う事には何でも従っていた。

 窃盗、強奪、襲撃、強盗……果ては、人殺しまで。あらゆる蛮行を行っても、良心の呵責を感じたことは一度もなかった。レイアにとって、それが物心ついた時からの日常だったからだ。


 暗闇でも自由に動くことができ、俊敏な肉体と高い危機察知能力を持つダークエルフの特性は、盗賊の生業(なりわい)の中で遺憾無く発揮されていた。


*

 そんな生活に転機が訪れたのは、数ヶ月前のことだった。


「――ワシを殺すのは構わない。だがワシを殺して、お前の心は果たして喜ぶかのう?」

 目の前で、今まさに刃にかけようとしているエルフの老人から発せられた言葉に、レイアは思わず手を止めた。


「レイアよ。お前の両親は、お前を捨てたのではない。お前を育てた盗賊が、お前の両親を殺してお前を(さら)ってきたのだ」

「――!! お前は何を言っている。なぜ私の名前を知っているのだ」


 目を瞑ったままの老エルフが、レイアの手の下で静かに言葉を紡いだ。

 老エルフから突然名前を呼ばれ、レイアは激しく動揺していた。


「ワシは目が見えぬが、その代わりに精霊達がたくさんのことを教えてくれる。今も、お前の傍にいる精霊がワシに真実を伝えてくれておるのじゃ」


 落ち着いた声でそう語る老エルフのその言葉は、真実であるとレイアの直感が囁いていた。

 どうすればいいかわからず無言で老エルフから手を放したレイアに、老人はもう一つの事実を伝えた。


「『レイア』という名前はな、(ふる)いエルフの言葉で『天使』という意味なんじゃ。お前の本当の両親が付けてくれた名前じゃよ。大切にしなさい」


 その言葉を聞いた途端、堰を切ったようにレイアの目から涙が溢れだした。

 何故泣いているのかは、レイアにもわからなかった。

 ただ胸の奥底から溢れ出る熱い感情が、記憶は無くとも両親の愛情を伝えてくれていた。


 膝から崩れ落ち大粒の涙を流すレイアの肩に、杖をついて立ち上がった老エルフの手がそっと触れた。


「レイアよ。残念じゃが、お前がこれまでにしてきたことは、許される事ではない。その証拠に……今のお前には、本来エルフなら聞こえるはずの精霊の言葉が届かないじゃろう。だがお前が本当に悔い改め、今までの罪を償う覚悟ができれば、お前の呪いは解け、精霊達の声が聴こえるようになるじゃろう」

「どうすれば……、私はどうすればいいのですか」


 涙を流しながら問うレイアを前に、老エルフは精霊の言葉に耳を傾けた。


「聖杯を……探しなさい。お前が、正しく清らかな聖杯の力を見つけることができれば、お前の罪の(しるし)は消え去るじゃろう」

 そう言って老エルフの手がレイアの肩から離れると、レイアの腕に暗く光る紋様が刻まれていた。


「これは、お主が自分の犯した罪に気付いた(あかし)。善い行いをすれば少しずつ薄まり消えていき、やがて聖杯の力によって完全に消えるモノじゃ。――行きなさい、レイアよ」


*

 全てを話し終えると、レイアは再びノエル達に向き直った。


「私は罪を償わなければならない。だから、私をお前たちの旅に同行させて欲しい」

「良い行いをすれば……って、さっそく僕たちのこと襲ってたじゃん、さっき!」


 レイアの声は先ほどまでの冷たいものではなく、その言葉には感情がこもっていた。

 きちんと最後まで話を聞いていたノエルは、多少の非難を込めてツッコみを入れる。


「すまん。つい昔の癖で、自分の安全を確保してしまうのだ。傷つけるつもりはなかった」

「ダークエルフは、元々警戒心が高いと言われていますからね……」


 レイアが申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。尖った耳が少し下に垂れている。彼女なりにかなり反省しているらしい。


 レイアの言葉を聞いて警戒を解いたヴァイスは、聞くまでもないことだが、といった顔でノエルとカッツェに確認した。


「何はともあれ、もうお二人とも心は決まっているのでしょう?」

「うん! レイアも一緒に来てもらおうよ! いいよね、カッツェ?」

「うむ。聖杯探しでも魔物退治でも、強い戦士は一人でも多くいた方がいい。あんなにあっさり背中を取られるとは、俺も初めての経験だぜ」


 ノエルが明るい表情で問いかけると、カッツェも納得の表情で頷いた。


 レイアが、カッツェやヴァイスの鋭い危機察知能力を潜り抜けて気配を気付かれることなく近付き、最も戦闘能力の高いカッツェの自由を真っ先に奪って自らの安全を確保したということは、レイア自身の状況判断能力と戦闘力がずば抜けて高いことを示していた。

 カッツェの言う通り、強い戦士は敵にすれば脅威だが、味方につければこの上ない戦力となってくれる。カッツェが認めた戦士であれば間違いないはずだ。


「良かった」


 ほっとした表情で、ようやくレイアが笑顔を見せた。

 こうして、男ばかり三人のパーティーにダークエルフの女戦士が加わることとなったのだった。

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