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第13話「大空に舞い上がれ -巨人の谷・2-」

 巨人(オーク)の谷を救うため、大鳥(ガルーア)に乗って大鳥(ガルーア)を追い払う、という奇策を編み出した一行。果たしてその結末は――。


*

 オーク達も交えて議論を重ねた結果、最終的にその作戦は実行されることとなった。


 若いオーク達が各地からカノアの指示した通りの薬の材料を集めてくる。

 オークはあまり賢くなく野蛮な一族ではあるが、自分達の利害と一致すれば協力的だった。


 カノアがオークの頭上で指揮し、オーク達が巨大な釜で薬を作る。その間にノエル達もできうる限りの準備をした。


*

 ついに全ての準備が整い、夕闇とともに作戦は開始された。


 カッツェが巨人の谷の淵に立ち、ぎりぎりと弓を引き絞る。狙いは上空を舞うガルーアにぴたりと定められていた。

 カッツェが構える矢羽の部分には、レイアがエルフの技で固く編んだ蔓のロープが括りつけられている。そのロープの先端はカノアの腰にしっかりと巻き付けられていた。


「行くぞ!!」

 カッツェが合図を送った。

 すぐ傍らで待機していたノエルとヴァイスは飛翔と身体強化の魔法を発動させ、カノアを最大限に保護する。

 レイアは胸の前できつく両手を握りしめ、心配そうに見守っていた。


「行けっ!!」

 カッツェが谷の上空を飛ぶ一羽のガルーアに向けて矢を放った。

 矢は綺麗な放物線を描いて飛んでいき、寸分の狂い無くガルーアの首元にロープが巻き付いた。

 しゅるしゅるとロープが伸び、ぴん、と張り詰めた瞬間、助走をつけたカノアも、しなやかな猫を彷彿とさせる身のこなしで地面を蹴る。


「ニャーー!」

 ばさばさと暴れるガルーアにロープごと振り回されるカノアだが、ノエルのかけた飛翔の魔法でその体重は羽のように軽くなっているはずだった。


*

 やがて暴れていたガルーが落ち着きを取り戻し、西の巣を目指して飛び始めた。

 ノエル達は早馬に乗り、カノアとガルーアを地上から追う。


 カノアはガルーアの首に下がるロープに掴まり、じりじりと慎重にロープを上っていた。

 ガルーアの巨大な体の下で、カノアはまるで小さな人形のように見える。

 ガルーアは谷の裂け目に沿って飛んでおり、谷底からの高さは小高い山の頂から麓くらいまでの高低差がある。もしノエルとヴィアスの掛けた保護魔法なしにカノアが生身で落ちてしまえば、その小さな体などひとたまりもないはずだ。


 見ている方が肝を冷やすほどの極限状態にも拘わらず、カノアは勇敢にも真っすぐガルーアの黒い体だけを見据えて上っていた。

 獣人猫族(ケットシー)は木登りが得意だから高い場所は怖くないのだと、カノアはノエル達に語っていた。だが、登っているロープが強風で大きく揺れているいま、いつ手を滑らせて落ちてもおかしくない危険が付きまとっている。


 何度も強風に煽られながらも、ついにカノアはガルーアの脚に触れられそうな位置まで近づいた。

 ガルーアはカノアよりも風上にいるので、カノアの存在には気付いていないようだ。


 そこで、カノアがぴたりと動きを止める。どうやってガルーアの背に飛び乗るか考えているようだ。

 ガルーアの脚にしがみつけば、ガルーアが気付いて暴れる可能性がある。もしもカノアが振り落とされてしまったら、ノエルとヴァイスの魔法でその体を支えられるかどうかは五分五分の賭けだった。


 ノエルがかけた飛翔の魔法の魔法は、ノエルから距離が離れるほどその効果が薄れてしまう。それに、距離が離れると魔法の焦点を正確に対象に当てることも難しくなるのだ。


 カノアがノエル達の位置を確かめるように、ちらりとこちらを振り向いた気がした。

 カノアは一体どうするつもりだろう――? 地上から追うノエル達も不安に思ったその時、

 ふいにガルーアが下降を始めた。


 ガルーアが羽ばたきを止め、宙を滑空する。

 気が付けば、西の山に近付いていた。ガルーアの巣はすぐそばのはずだ。


 ガルーアが下向きに態勢を変えた瞬間、ふわりとロープがたわんでカノアがガルーアの背中よりも高い位置に上がった。

 カノアはその一瞬を逃さなかった。

 ぐんっ、と思い切りロープを引っ張り、同時に体を空中で前方に半回転する。


 くるん、とそのままカノアが空中で体を回転させ……すとん、とガルーアの背中に降り立った。


*

「……やった!!」

 ずっと地上で風の精霊の加護を唱えていたノエルは、額の汗を拳で拭いながら思わず喜びの声を上げた。

 ヴァイスはカノアが万一落ちたときに支えられるよう、白魔法の障壁を唱え続けている。


 日没とともに、西の山には各地から巣に戻ってきたガルーア達が数百、数千と集まってきていた。空の上はガルーア達の無数の黒い影で覆われている。辺りは卵が腐ったような強烈な異臭が漂い、息もできないほどだ。


 山の斜面はガルーアの巣で埋め尽くされていた。ガルーアの巣は枯れた灰色の木々を集めて作られている。ガルーア達のまき散らす糞のせいなのか、山肌は裾広がりの扇状に灰黄緑色に枯れ果て、見るも無残に荒れ果てていた。

 荒廃しているのはガルーアの巣がある山の東側斜面だけのようで、それ以外の斜面と周りを取り囲む暗き森は、巨大な木々が青々と茂っている。


 カノアはガルーアの首と口ばしにくるくるとロープを巻き付け、巨大な鳥を完璧に乗りこなしていた。

 カノアの乗ったガルーアが上空を大きく旋回する。どうやら薬を撒く位置と、風の向きを確かめているようだ。


 ちょうど風は、山の頂上からガルーアの巣のある山裾に向かって吹き下ろしていた。絶好のタイミングだ。

 カノアがガルーアを駆使し、徐々に高度を下げた。薬粉をなるべくガルーアの巣の近くで撒こうとしているようだ。だが、ガルーアの巣に近付けば近づくほどその危険は増すことになる。


 やがてカノアはガルーアを滑空状態に移すと、背中に背負った大きな包みから粉を一つかみ取り出した。

 そのまま後ろ向きに粉をバラ撒くと、近くを飛んでいた別のガルーアがその匂いに気付き慌てて方向を変えて飛び去って行った。――カノアが特別に調合したその秘薬は、どうやら効果抜群のようだ。


 ついに決心した様子のカノアが、背中の包みをほどいた。

 そして大量に調合したその薬を上空からガルーアの巣に向かって振り撒く。


*

 卵が腐ったような異臭が徐々に消えてゆき、今度は物凄く酸っぱい柑橘系の香りが辺りに漂う。


 ガルーアの嫌うその匂いに、巣にいたガルーア達が騒ぎ出し、飛び上がって逃げ出し始めた。

 大量のガルーアが一斉に飛び立ったことで、西の山は大変なパニックになる。

 カノアの乗ったガルーアがその混乱に巻き込まれ、態勢を崩した。


「ニャっ?!!」

 突然傾いた視界に、思わずカノアがロープから手を離してしまった。


「ニャーーー!!!」

 真っ逆さまに、カノアが地上に向かって落ち始めた。

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