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第10話「白黒エルフと獣人猫族」☆

 カッツェ・ノエル・ヴァイス・レイアの四人に獣人猫族(ケットシー)のカノアが加わり、パーティーは(ヒト)族二人・エルフ二人・獣人猫族一人という構成になっていた。


*

「おい、大丈夫か? さっきからフラフラしてるぞ。また腹でも減ったのか?」


 カッツェが、後ろを歩くカノアに声を掛けた。

 朝方は元気にカッツェやノエルの周りを跳ねまわって歩いてたカノアだが、昼間を過ぎた頃から次第に元気が無くなっていた。尖った耳もふさふさとした尻尾もしょんぼりと垂れ、トボトボとカッツェの後ろ、ノエル達の前を歩く。


「違うニャ~、ボク達は夜行性だから、昼間はどうしても眠いんニャ。今はちょうどお昼寝の時間ニャ」

 ふあぁ、と欠伸(あくび)をしながら、カノアが目をこする。


「なるほど……猫、ですからね」

「僕がおんぶしてあげようか?!」

 眼鏡を押し上げながら言うヴァイスは、相変わらず生真面目だ。

 ノエルは自分の荷物をカッツェに持ってもらっていることも忘れて、カノアに提案した。北の村ではノエルより年下の子供がいなかったので、ノエルは自分の妹ができたようで少し嬉しかった。


「ニャ~、それは申し訳ないニャ~」

 そう言いながら、カノアが背中によじ登る。


「おいっ、俺には申し訳なく無いのかよ?!」

「こっちの方が安定するニャ~」

 カノアが登っていたのは、ノエルではなくカッツェの背中だった。

 背中の上、というかほどんど肩車状態でカッツェの頭にしがみつき、カノアが機嫌良さそうに尻尾を揺らした。


「……ぷっ」

 黙って見ていたレイアが噴き出す。

 カノアがパーティーに入ってから、パーティーの雰囲気が明るくなっていた。


*

「……くんくん」

 カノアが、何かの匂いに気付いた。


「……臭っ! カッツェ、最後にお風呂に入ったのいつニャ?」

「おいっ、勝手に人の頭に乗っておいて、失礼だな」

 カノアの下からカッツェが抗議する。


「おやおや。しかし、カノアの言うことも(もっと)もです。最近ろくに身を清めていませんでしたからね。川を見つけて水浴びでもしましょうか」

 もともと綺麗好きなエルフであるヴァイスがそう提案した。

 男三人の時には大して気にも留めていなかったが、確かに獣人族は鼻が鋭いので近くで悪臭がしていたら気になるだろう。深い森の中とはいえ、エチケットは大切だ。


*

「じゃ、レディーは川上、男子は川下でよろしくニャ」

 川に着くと何故か最年少のカノアが仕切り、早速レイアとともに川上に向かおうとする。


「……っておい、なんでお前はレイアと一緒に行こうとしてるんだ」


一同「はっ?」

カッツェ「えっ?」


「何言ってるニャ!ボクはれっきとしたレディーだニャ!」


「え? そうなの?」

「(コクリ)」

 カッツェが他のパーティーに確かめたので、全員が頷いた。


「いや、すまん! 体型……いや『ボク』って言ってるからてっきり男かと!」

「まったく、失礼しちゃうニャ! レイア、行くニャ!」

 カノアがくるりと後ろを向いて川上に向かう。ピンと立った耳と、上を向いて揺れる尻尾の様子から、相当怒っているのが見て取れる。


「最低だな……」

 レイアがカッツェに冷たい眼差しを向けて去って行った。


*

「まぁ確かに最低ですが、間違えてしまったものは仕方ありません。以後、デリカシーのない言動は慎んでくださいね」

「すまん……」

 眼鏡を外したヴァイスは冷たい川の水で顔を洗いながら、カッツェを(たしな)める。

 思わぬ失態に、カッツェはしょげていた。


「あははっ、カッツェはしょうがないな~。ところで、カッツェは凄い日に焼け方だね、さすが南国出身」


 ノエルはカッツェの失態を笑い飛ばしながらも、乱雑に上着を脱ぎ捨てたカッツェの筋肉質な背中を見て、感嘆の声を上げた。

 真っ黒に日に焼けた肌は、太い木の幹のように堂々としていた。ノエルは自分の白い肌を見て、少し悲しい思いで溜息を付く。いくら日照時間が短い北国の出身とはいえ、こんなにひょろひょろではきっと周りから軟弱に思われているだろう。実際その通りなのだが、ノエルはいくら鍛えても筋肉が付き辛い体質のようで、小さな頃はよく女の子に間違えられていた。

 ノエルは今の自分の体の身軽さも嫌いではなかったが、大人になったらカッツェのように強く逞しい体つきの男になりたいと心ひそかに憧れていた。


「お前らが白すぎるんだよ……特にヴァイス」

「我々ホワイトエルフは(ヒト)族と違ってメラニン色素を持たないので、日に焼けません」

「え? でもレイアは色黒だが」

「彼女は (ダーク)エルフ。私達 (ホワイト)エルフとは少し違います……日に焼けている訳ではありませんよ」

「失礼ついでに聞くが、どう違うんだ?」


 カッツェの問いに、真面目なヴァイスは説明する。


「元々は、どちらも同じ森の中に暮らす一つの種族だったと言われていますが……。

 エルフ族はもともと、森の民として生まれました。太陽の光や森の大気、清らかな水と精霊達のエネルギーを(かて)にしています。

 しかし、天変地位や工業の発展により、森や自然が失われていったとき、エルフの住処すみかも減っていきました。そして、二つの派閥に分かれたのです。


 一つは、太古から続く生活を変えず森の奥深くに(こも)り、森とともに生きる道。これが我々ホワイトエルフの先祖です。


 一方、厳しい環境の変化に適応し……いえ、自ら適応させ、と言いましょうか。大地の力、闇と影のエネルギー、月の光、それに生物のエネルギーも糧として生きられるように進化していったのが、ダークエルフと言われています。


 二つの種族は同じエルフ同士でありながら、通常はあまり関わることがありません。住む場所が違うという点もありますが……

 一般的なホワイトエルフは、ダークエルフのことを”野蛮な一族”だと思っていますし、ダークエルフはホワイトエルフのことを”時代遅れな一族”だと思っています。

 まぁ表立っては言わないし、エルフは平和主義なので争ったりはしないんですけどね」


「へぇ……エルフにも色々あるんだな」

「まぁ……それは(ヒト)族とあまり変わりありませんよ」

「確かに。(ちげ)えねぇ」

 カッツェはそう言って豪快に笑った。


「おーーい、男子はいつまで入ってるニャ。女の子より長風呂ニャ?」

 長話をしている間に、いつの間にかカノアが川下の淵に来ていた。


「わぁ! お前、覗くなよ! セクハラだぞ!」

「あははっ、カッツェがそれ言う?」


 ノエルの言葉に、一行は同時に笑いに包まれた。

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