ガラス越しの恋
いつもは、大勢の人たちがこちらに見向きもせずに通り過ぎて行く店の前で、1人の女性がふと足を止めた。
僕に目を合わせるようにじっと見つめて、少し頬を赤らめるとそのまま急ぎ足で去って行った。
彼女の後ろ姿を追うこともできず、ただその場で彼女の顔を繰り返し思い返す。
次の日も、彼女は店の前で足を止めた。同じようにじっとこちらを眺め、今度は少し困ったような表情を浮かべて足取り重く帰って行った。
その日も、彼女に声すらかけることが出来ずただ見ているだけだった。
それから数日間、彼女の姿を見ることは無かった。たった2日間で、彼女の存在はとても大きなものになっていた。この感情は何なのだろう?
明日は、彼女は来てくれるだろうか?
どうして、来なくなってしまったのだろうか?
なぜ、あんな表情を見せたのだろうか?
あぁ今日も、彼女は来てくれなかった••••••。
雨が降った午前中とは打って変わって眩しい陽射しが差した午後。彼女は久々に店の前へとやって来た。
彼女の姿をみると胸が一気に高鳴った。これは何なのだろう?初めて感じる思い。僕には、言葉の知識が足りない。君にこの事を伝えられたら、教えてくれるだろうか?
そんなことは、無理だとわかっているけれど、望んでしまう。君と会話ができる奇跡を••••••。
けれど奇跡など起こることはなく、君はただ僕を見上げる。
ーー初めて見る知らない男性と。
彼女と彼は、僕の前に立ち笑顔で語り合う。
そして、初めて店へと足を踏み入れる。彼と一緒に。
僕の背後で初めて聞こえてきた彼女の声は、とても可愛らしく透き通るようなキレイな声だった。
「すみません、あそこのマネキンが着ている結婚衣装予約させてもらえませんか?」
彼女がそう言いながらこちらを指差す姿が、目の前のガラスに反射して見えた。
それからどのぐらいの月日が経っただろう?
僕は、あの日とは違う衣装を身に着けて同じ通りを眺めている。
〜END〜
こんにちは初めまして。
Ranaと申します。更新はかなり遅めですが、頑張って作品を書いて行こうと思います。
趣味でやっておりますので、小説なんて呼べる物にはなっておりませんが、一人でも面白いと思ってくださると嬉しいです。
読んでくださった方は、是非感想を下さい。