黒い炎と緑の壁
長らくお待たせしました
続きです。
どうぞ
「水の中で詠唱できないよな。どうやったんだ?」
トールの出した黒炎の威力に呑まれ静寂が支配した闘技場に、空気の読まないバカの声が響いた。
「ああ、あれは水の中に層を作ってあったんだろ。」
「層?いつ作ったんだよ。」
「そんくらい自分で考えろ。」
実際には相手の詠唱で水が自分を囲うことを察知した時に対策の詠唱を済ませていたのだろう。
水によって相手から自分の姿が見えなくなったタイミングで術を発動。後は相手が調子に乗った最高潮で水を貫いた。
俺のいい加減な説明に静まり返っていた場が安堵の息で埋め尽くされた。
無詠唱であの威力では無いことに気が付いたのだろう。
「まあ、あいつらの勝負は着いただろう。」
トールの相手は自信満々に放った魔法が破られ、更には自身の放てるどの魔法よりも強力な魔法を見せられて呆然としていた。
しかし我を取り戻すとトールに近付いて行った(・・・・・・・)。
「おいお前。今のは魔晶石を使ったんだろ?水の中であの威力が出せるわけg・・・」
「それ以上近付いたら首が跳ぶわよ。」
トールは自分の得物を無防備に近付いて来たバカの首に添えていた。
「そこまで!」
「おい!まだ決着は着いてない!」
「この模擬戦は実力を見るためのものだ。決着は後で着けろ。」
「くそっ。覚えてろよ!」
そいつは捨て台詞を吐いて観戦席に戻って行った。
「そろそろ最後か?」
「そうみたいだな。よし、暴れようぜ!」
「程々にしろよ?疲れて動けなくなっても知らんからな。」
「へっ、その余裕いつまで持つのか見ものだぜ。」
お前はどっかの悪役か
突っ込みたい衝動はひとまず押さえて草町の元へ駆け寄った。
「ん?何か用か?」
「いや、一応武器の使用許可を貰おうと思って。」
「今までの試合で武器使ってたろ?」
「自分の武器使いたいんだが。」
草町は俺の持つ剣をちらりと見た。
「ん~。」
「やっぱ駄目か?」
「いや。許そう。これは実力を見るためのものだからな。この学園にはお前の求める武器は無さそうだ。」
「ありがとうございます。」
「よし、準備はできたな。」
「それでは・・・」
「始め‼」
試合開始の合図と共にこちらに走り寄ってくるイギア。
っておい!?
「お前、遠距離じゃねえのかよ!」
「はっはぁ!いつ俺が遠距離だと言ったよ!」
「チッ」
でもまだまだ甘い。
対応できる速さであるし、何より直線で向かってきている。
「流石にこの動きは無いんじゃないかぁ!?」
「うっせ!黙って殴られろ!」
しかも手徒空拳である。
太刀相手だと分が悪い勝負になる。
何がしたいんだこいつは。
「避けてばっかいるんじゃねえよ!」
「じゃあこっちからも仕掛けるぞ!」
「望むところだ!」
イギアは動きを止めた。
完全に守りに徹するらしい。
それならばと早速攻撃に移ることにした。
それなりに本気の速さでは近づき牽制の攻撃を何度も放つ。
意外にもイギアは見えているらしく、こちらの攻撃は全て避けることに成功していた。
「その程度かよシルファ!」
「そんなこたぁねえよ!」
「本当かぁ?実はこの程度しか出来ないんじゃね?」
ああムカついた。
俺がこの程度だって?
安い挑発だと分かっていても乗らない選択はない。
「いいだろう。本気でやってやるよ。」
「よっしゃあ!こいや!」
周りの目には俺が掻き消えたように見えただろう。
そしてイギアに斬り掛かり、
『不動なる黄よ、豪快なる緑よ、我が前に顕現せよ』
突如現れた岩に斬撃は阻まれ、風によって大きく吹き飛ばされた。