クランプスの鈴
今日も冷えるね。
もうすぐクリスマスか。
私は冬にはちょっと嫌な思い出があってね。
……。
ある年の冬のことだ。
一人の女の子が行方不明になった。
万引きをしただけでも噂になるほど小さな町だったので大騒ぎになった。
大人たちが総出で探し回って、パトカーのサイレンがずっと聞こえていたのを覚えている。
女の子の家に石炭が投げ込まれるという悪戯もあって、テレビでも取り上げられた。
結局、ひと月が経過しても見つからなくて次第に捜査は縮小されていった。
私はその女の子にいじめられていたので、最初はいい気味だと思っていた。
これで体のあざや傷について親に聞かれても、もう嘘をつかなくて済む。
それに、行方不明になるということがどういうことなのか、あまり理解できていなかった。
ただ、どこか遠くに行って帰ってこないぐらいの認識だった。
なので、半分くらい、本気で罰が当たったのだと思っていた。
サンタクロースはお願いしたものをくれなかったが、代わりにいじめっ子を消してくれたと喜んだ。
だが、その子の両親が嘆き悲しんでいるのをニュースで見てかわいそうだなと思った。
私をいじめていた子のことがではない。
その子の両親のことがだ。
私は不幸な目にあったからと言ってそれで自分をいじめたことを許せるほど心の広い人間ではなかった。
それでも自分の子供を失って悲しんでいる両親に対して同情する程度の情は持ち合わせていた。
要するに私はどこにでもいるありふれた感情を持った、ごく普通の子供だったということだ。
……。
その翌年の冬。
学校の帰り道で私は黒づくめの老人に話しかけられた。
お葬式の帰りなのかと思ったが、近づいてみると黒い服ではなく、
煤で汚れているのだとわかった。
ちょっと変だなと思ったが、顎髭だけは白くてサンタクロースみたいだったのでつい応じてしまった。
あり得ないとは思いながらも、
サンタクロースが変装してプレゼントのリサーチに来たのかも……と思った。
我ながら突拍子もないことを期待していたものだと思う。
学校からそんなに離れていなかったこともあって、
私はいざとなれば学校まで走って逃げればいいと考えていた。
老人は私に紐のついた鈴を握らせてこう言った。
「これを鳴らして見せてくれないか?
歳のせいで手が震えて上手く鳴らせないんだ」
「……これを鳴らせばいいの?」
私は言われた通りに紐を揺らして鈴を鳴らそうとしたが鈴は鳴らなかった。
それなら、と紐を勢いよくぶんと回したら、すっぽ抜けて飛んで行ってしまった。
「ごめんなさい!」
まずいことをしたと慌てて鈴を拾いに行った。
鈴を拾おうとしゃがむと影が差した。
顔をあげると、いつも私にちょっかいをかけて意地悪をする男の子が立っていた。
髪を引っ張られたり、突き飛ばされたり、先生の目を盗んでは悪さをする乱暴者だ。
他のみんなも自分が標的にされないよう距離をとっている。
嫌な奴に会ってしまった。
男の子は私の手から鈴をひったくると紐をぶんぶんと振り回した。
「これ、もーらい!返してほしかったらここまでおーいで!」
チリンチリンと鈴を鳴らしながら男の子は走り去ってしまった。
「ま、待って、返してよ!」
私は必死に叫んだが振り返りもせずに行ってしまった。
男の子の声と鈴の音が、遠くの角を曲がってフッと消える。
あたりは、妙に静まり返っていた。
まずいことになった。
私は謝ろうと老人を振り返ったが――どこにも姿は見えなかった。
少し辺りを見て回ったが見当たらない。
男の子を追いかけていったんだろうか。
そんな様子も気配もなかったが、そんな気がした。
とぼとぼと家に帰り、親に老人と男の子のことを話すと、
「知らない人と話しちゃダメって言ったでしょ!」
とこっぴどく叱られた。
最悪の一日だと思ったことを覚えている。
翌朝、学校に行くと乱暴者の男の子が昨日から帰っていないと騒ぎになっていた。
今度はいい気味だとは思えなかった。
……。
ところで、昨日、うちの子供が公園で黒い石を拾って帰って来たんだ。
こういうの興味あるって言ってたよね。
もらってくれる?
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