王国には、決まりがある。 国王の子が成人すると、王国の繁栄を願って、神に一人生贄に捧げられるのだ。
「お父様。喜んで、この身を捧げますわ。」
父王が次の言葉を発する前に 王女 ハリアナ は快活に発した。
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王国には、決まりがある。
国王の子が成人すると、王国の繁栄を願って、神に一人生贄に捧げられるのだ。
血生臭いことをするわけではない。
ただ清貧な生活と王国繁栄の祈りの儀式を粛々とこなすだけでいい。
では、なぜ生贄を呼ぶか。
生贄の子どもには、なぜか不幸が起こる。
重大な病気であったり、祈りの巡礼に向かう途中の不慮の事故で半身不随になったり、
とにかく死なない程度の、それはそれは不幸が起きるのである。
誰が自分の子どもを不幸にしたか。過去、生贄を出さない王もいた。
すると、たちまち、繫栄していた国は、
隣国の侵略戦争の巻き添えとなり、
作物が育たず飢饉となり、
はたまた、疫病の蔓延と、
国が傾く災いが起こる。
王命で国中の学者らが長年にわたり、生贄と災いについて調べても、さっぱりわからなかった。
今に至るまで、捧げられた子どもたちは、文字通り、国の安寧のための「生贄」であった。
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第一王女 ハリヤナ は生まれたころから、生贄であることが決められていた。
というより、自分こそが生贄になることを信じて疑わなった。
聡明な兄は次期王として申し分なかったし、かわいい弟や妹を犠牲にすることを頭の片隅にも思わなかった。
ハリアナが悪いわけではないが、国王の第一男児の次の子どもが生贄になることが慣例化していることもあった。
そんなハリアナを王妃である母からは大層嘆いた。
では、ハリアナは生贄になることをどう思っていたか。
膝を抱えて泣いてうずくまって、生贄になるその時を待っていたか。
いいえ。ハリヤナは自分が生贄になることを誇りに思っていた。
「国の繁栄のため民の幸せのため、立派な生贄を務めましょう。民の幸せは私が守るわ!!
生贄になるからには、徹底的に不幸に耐えられるようにならなければ。
不屈の精神、不屈の肉体。心技体をもって神からの不幸を一身に受けきってみせましょう。」
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満を持して立派な生贄になるために、物心つくころから、ハリアナは努力を惜しまなかった。
「体を鍛えておきましょう。生贄だから病気にかかるのは仕方ないにしても、あまり苦しむのは嫌ね。
病気になっても、自分で何とかできるように、知識を身に着けておきましょう。」
ハリアナは男子高校生も真っ青なハードな筋トレを毎日こなした。
柔軟も欠かさず、その美貌も相まって、バレエ集団からオファーがくるほどであった。
病気の知識を得るために王宮医師から手ほどきも受けた。
特に病気になった時の対処療法、治癒のための薬に代わる効果的な食事療法を民に周知したことは、大層感謝された。
当の本人は、日々の筋トレのお陰で、有り余る体力がつき、病気など無縁であったが。
「巡礼中の事故が生贄にはつきものだものね。受け身くらいはとれるようになりたいわ。ケガの応急処置も覚えましょう。」
ハリアナは淑女に求められるダンスは生贄のため一切勉強しなかった。あまり関心がもてなかったからだ。
代わりに、その時間、東の国に伝わる体術を身に着けることにした。
なんでも、その体術を身に着けると、あばれ馬からなげだされても、ケガすることなく、着地することができると聞いたからだ。
東方から先生を呼ぶのは、とても難しかったが、そこは王族。
娘を不憫に思う父王が探してくれた。
ハリアナは父王の気持ちを無駄にすることなく、一心に稽古に励んだ。
6歳から始めた東方の体術は成人するころには師範代 最強クラスであった。
ケガの応急処置には騎士団医師に手ほどきを受けた。
その際、騎士と仲良くなり、体術を披露したところ、「これは使える」と騎士の基礎トレーニングのひとつとなった。
心技体を目指す体術は騎士の華麗な剣技と合わさり、王国が過去一番の強さを誇ったことなど、ハリアナは知る由もない。
「生贄の家はとても古いと聞いたわ。急に壊れてしまっても応急処置ができるくらいDIYの技術を磨いておきましょう。」
「森には危険な動物はいると聞くわ。対処法と、戦える術を身に着けなくちゃね。」
「巡礼中、生活が苦しい民に食事を提供することもあるわね。私もその食事に慣れておきたいわ。今から、外の調理を覚えておきましょう。
ついでに、いつなんどき、外に放りだされるかもしれないわ。野営もできるようにしましょう。」
「生贄を全うするつもりだけれど、、、もし私の生贄としての働きが不十分と神が判断したら?
飢饉が起きないように、丈夫に育つ作物を調べておきましょう。片っ端から育てて実験ね。」
そんなこんなで、ハリアナは、生まれ持った美貌、女性らしいやわらかな柔軟な身体、
屈強な筋肉、接近戦なら負けなしの体術、病気・ケガの知識、緊急事態への備えetc.etc.etc.
ハリアナは知らず知らずのうちに王家始まって以来のど根性令嬢となっていた。
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18歳になったハリアナは、ついに父王に呼ばれた。
ついに、生贄の洗礼を受けるのだ。
---胸がどきどきする。ついにこの日を迎えるのね。
---国に住むすべての不幸は甘んじて私が受け入れるわ。
-----よっしゃ!!!バッチコイッ!!!
「ハリアナ、顔を上げなさい。」
父王が威厳のある声で私を呼んだ。
「お父様。喜んで、この身を捧げますわ。」
父王が次の言葉を発する前に 王女 ハリアナ は快活に発した。
18年間頑張って生贄になるための、すべての不幸を受け止めるための準備をしてきた。
この国、民のためならば苦しい修行も、これから先の悲しいこと、つらいことも乗り越えられる!!
胸がいっぱいになって、我慢ならず思わず出た言葉だった。
王は少し口角をあげてハリアナに告げた。
「お前を、次期女王に指名する。」
「--------はい?????????」




