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血濡れの花  作者: 葡萄
6/6

最終話 最高な日

朝食を終えた菜沙は、学校の支度を整えた。

鞄を肩にかけ、玄関で靴を履きながら、桃に声をかける。

「それじゃ、行ってくるね」

笑みを浮かべて振り返ると、桃も柔らかく微笑みを返してくれた。

「行ってらっしゃい、菜沙ちゃん」

ドアノブに手をかけ、回そうとしたその時───

「あ、待って」

背後からかけられたその一言に、菜沙の手が止まった。

不思議そうに振り返る。

「どうしたの、桃ちゃん?」

「え、えっと・・・」

桃は少し戸惑うように言葉を詰まらせたが、すぐに小さく息を吐いた。

「ちょっとだけ・・・顔、こっち向けて」

そう言われて、菜沙は少し首を傾げながら顔を近づけた。

すると桃は、そっと手を伸ばし、菜沙の頬に触れる。

指先が触れた次の瞬間───ふわりと唇が、頬に触れた。

「・・・っ!?」

いきなりの出来事に、菜沙の顔がぱっと赤く染まった。

驚きで目を見開いたまま、言葉にならない声が喉の奥で跳ねる。

「も、桃ちゃん!?」

あわてて顔を向けると、桃も同じように頬を染めていた。

視線を泳がせ、恥ずかしそうにモジモジと指先をいじっている。

「な、なんで桃ちゃんが顔赤くなってるの・・・!?」

「だ、だって・・・やってみたら、思ってたより恥ずかしくて・・・」

小さな声でそう言って、桃は照れ隠しのように視線をそらす。

その仕草があまりにも愛おしくて、菜沙は思わず笑ってしまった。

(うちの彼女、可愛いな)

そう思いながら、菜沙は桃の頭を優しく撫でた。

桃はくすぐったそうに目を細め、嬉しそうな笑みを浮かべた。

その表情を胸に焼きつけるように見つめたあと、菜沙は再び玄関のドアノブに手をかけ、ふと桃の方を振り返る。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

変わらぬ声と笑顔でそう送り出すと、桃は玄関が閉まる音までじっと耳を傾けていた。

扉の向こうから足音が遠ざかっていくのを確かめるように聴いたあと、自分の頭にそっと手を置く。

そこにはまだ、菜沙の温もりがわずかに残っていた。

そのぬくもりを確かめるように、桃は小さく笑った。

そのままリビングへ戻り、テレビのスイッチを入れる。

静かに流れ出した朝の情報番組をBGMのように聞きながら、キッチンに立ち、使い終えたフライパンや包丁を洗い始めた。

すると、不意にテレビから流れてきたニュースの声が、ふと桃の耳に引っかかった。


『速報です。桜橋川付近で、男女の遺体が発見されました。遺体には胸などを刃物で刺され、殺害されていたのを発見しました。遺体は胴体と首が分かれており、警察は被害者は加害者と何か深い恨みがあるのだと推測しています』


ニュースの音声が、淡々とした口調で凶悪な事件を告げていた。

その声を背に、桃は洗い終えた調理器具を丁寧に布巾で拭き、元の場所へ戻す。

そして、何気ない動作でソファの脇に置いてあったバッグに手を伸ばす。

中から取り出したのは、チャック付きの透明な袋。

袋の中には───まだ乾ききっていない、血のこびりついたナイフがひとつ。

桃は一言も発さずに袋を開き、ナイフを取り出すと、流しの前に立つ。

流れ出る水の下で刃をゆっくりと洗いはじめた。

ナイフに付着していた血は、ゆるやかに赤を滲ませ、水と共にシンクへと流れていく。

その様子を見つめる桃の顔には、表情というものがまったく浮かんでいなかった。

まるでそれが、料理の片づけとなんら変わらない行為であるかのように。


教室の扉を開けると、騒がしい朝の空気の中で、菜沙の視線はすぐにひとりの友人を捉えた。

「おはよう、なずっち!」

元気な声とともに手を振るのは、同じクラスの優奈ゆうなだった。

その笑顔に釣られるように、菜沙も口元をゆるめて応える。

「おはよう、優奈」

菜沙はそのまま優奈の隣の席に腰を下ろす。

すると、すかさず話しかけられた。

「なずっち聞いてよ! あたしさ、この前バイト先でさ、パワハラ食らったんだよ!? マジむかついて、バックれようかと思ったんだけど!」

菜沙は目を丸くしながら、少し驚いたように眉を上げる。

「えっ・・・でも、やめなかったんだよね?」

「そうなの! あたし、耐えたの! マジで偉くない?」

ぷくっと頬を膨らませながらも、どこか誇らしげな優奈の様子に、菜沙はふっと笑みをこぼした。

「うん、偉いよ。さすが優奈だよ」

その一言に、優奈はパッと顔を輝かせた。

嬉しそうに目を細めて、満面の笑みを浮かべる。

「でしょ!? もっと褒めていいよ〜?」

嬉しさを隠しきれない様子で、優奈は勢いよく菜沙に抱きついた。

「なずっち大好きー!」

その腕の勢いに少しバランスを崩しながらも、菜沙は冷静に肩を軽く叩いた。

「暑いから離れて」

「えー・・・やだなー、もうちょっと───ん?」

ふざけながら頬を寄せたそのとき、ふと優奈の目に、菜沙の首元が映った。

ふわりと垂れた髪の隙間から、なにかが、うっすらと見えた気がした。

「ん? なずっち、ちょっと・・・ごめんね」

優奈は冗談交じりに笑いながら、そっと菜沙の髪を指で持ち上げた。

一瞬で、その笑顔が消える。

そして、まるで何かに触れてはいけなかったように、さっと菜沙から身体を引いた。

「・・・?」

いつもなら、しばらく離れようとしない優奈がすぐに距離を取ったことに、菜沙は違和感を覚えた。

振り返ると、優奈の表情は硬直していた。

目は伏せられ、口元はひきつり、まるで───怯えているかのようだった。

「・・・どうしたの?」

優奈の引いた表情が気になり、菜沙は首をかしげた。

「い、いや・・・その・・・首、痛くないの?」

「・・・え?」

聞き返すと同時に、菜沙は自分の首に手を添えた。

すると、ズキン、と鋭い痛みが走る。

「っ・・・!」

思わず声を詰まらせ、菜沙は慌ててスマホを取り出す。

カメラアプリを立ち上げ、インカメを反転。

画面に映ったのは、赤く腫れた肌───そして、明らかに人の歯形とわかる跡。

「・・・・・」

何秒か、思考が止まった。

その間に、じわじわと記憶と現実が重なりはじめ、菜沙の顔がみるみるうちに赤くなっていく。

「い、いや、これ、その・・・か、蚊に・・・噛まれたの!」

慌てて首元を手で隠しながら、しどろもどろに言い訳をする菜沙。

優奈は一拍の沈黙のあと、深くため息をついた。

「・・・いや無理がありすぎるよ、なずっち」


本来ならば噛み跡程度なら直ぐに治る。

なぜ治らないのか。

それは桃の唾液に含まれる成分が関係している。

桃の唾液には菜沙の再生力を低下させる成分が含んでいる。

しかし、ただ噛み付いただけでは効果はないが、あるやり方で再生力を低下させることができる。

それは、菜沙に噛み付いた後、その傷口に唾液を多く含んだ舌で舐めることである。

そうすることで菜沙の再生力は低下し、唾液の量によって再生力は更に低下する。

何故、桃にそんな成分があるのかは、本人でさえ分からない。


菜沙は顔を真っ赤に染めたまま、必死に首元を手で隠した。

(どうしよう・・・これ、どうやって隠せば・・・)

思考がぐるぐると空回りしはじめたそのとき、目の前に“何か”が置かれる音がした。

「はい、これ使って隠してね。変な噂たったらマジで面倒だから」

優奈の声と共に視線を下ろすと、机の上にはガーゼ、サージカルテープ、そして小さなハサミが 並んでいた。

「・・・あ、ありがとう・・・!」

その気遣いに助けられた菜沙は、そそくさとそれらを掴み、顔を隠すようにして教室の外へ駆け出す。

(もう・・・桃のバカ・・・!)

心の中で毒づきながらも、思い浮かべたその顔に、ほんの少し笑みが混じってしまった。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

全6話どうでしたか?

リョナ・百合・純愛・ヤンデレ全部僕の癖です(◜¬◝ )

この話はこれで終わりなのですがもしかしたら気分で連載するかもしれません

この話の続きかもしくは1話から書くのか・・・

仮に書くとしたら恐らくこの題名のまま出して

こっちの作品を変えるかもしれません

(だってこの題名めっちゃ気に入ってるもん)

それでは皆さん本当にここまで読んでくださりありがとうございます

次回作待っててくださいね

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