表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血濡れの花  作者: 葡萄
4/6

第4話 自傷の慰め

桃が家に帰ってくる数時間前──

菜沙が机の引き出しから取り出したのは、一丁のカッターナイフだった。

静かに刃をスライドさせる。わずかに光を帯びた刃先に、曇った瞳を落とす。

じっと見つめながら、ぽつりと呟いた。

「・・・桃ちゃんに、バレないかな・・・?」

刃を手首に当てて切ろうとした時、脳裏に桃との約束を思い出した。

(そういえば・・・辛いときは、話を聞くって約束したっけ)

桃の優しい声が、胸の奥でふわりと広がる。

その記憶に引き寄せられるように、菜沙の手首からカッターナイフがそっと離れた。

けれど───

(・・・だけど)

安心でも、安堵でもない、別の感情が、胸の奥で静かに顔を出した。

(もし・・・傷つけたら、沢山食べて、沢山癒してくれるのかな・・・?)

そんな歪んだ期待が、心の隙間からそっと忍び込む。

食べて欲しい。ただそれだけ。

その事を浮かばせると、菜沙は持っていたカッターナイフを再び手首に当てた。

そして、歪んだ笑みを浮かばせながら、菜沙は手首の脈を切った。

手首から感じる痛みと滴る血。

それらを感じながら、まるで懺悔するかのように言った。

「ごめんね、桃ちゃん・・・こんな私で・・・」

そう言い、菜沙は気が済むまで手首を切りつけた。


そして菜沙は、血のついたカッターナイフを丁寧に洗い流した。

手首の傷が桃に気づくように簡単な手当をしてた。

手当を終えると、何事もなかったかのように台所へ向かう。

冷蔵庫から食材を取り出し、桃の好きな中華料理の下ごしらえを始めた。

ジュウッと油が跳ねる音が、さっきまでの静寂をかき消していく。

まるで、流れた血も、痛みも、すべてが「ふつう」の日常の一部であるかのように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ