第九話 十五夜のシルエット
自分が望む姿形ってどんなんかな???
ネズミ「やぁ!」
ウサギ「やぁ、ネズミくん。今日はあまり機嫌がよろしくなさそうだね?」
ネズミ「分かっちゃったかい?」
ウサギ「そりゃ分かるよ。君とは長い付き合いだからね。
ネズミくんは『やぁ』の後には必ず『ウサギくん』って僕のこと呼ぶのに今日はそれがなかった」
ネズミ「そうだね~。もう何年になるんだろう。ウサギくんとこうして話をするようになったのは」
ウサギ「何年って、そんなに昔じゃないよ。
だって僕がここに来てまだ一年経ってないんだからね」
ネズミ「そうだったかね~?!?
もっともっと、ず~っと昔から友達だったような気がしていたんだけど・・・」
ウサギ「ところで、今日は何で機嫌が悪いのか、そのことで僕に愚痴りに来たんじゃないの!」
ネズミ「ああ、それだよ! また君の所為で脱線した」
ウサギ「・・・・」
ネズミ「実はこの前お邪魔したお宅である絵を見たんだ。そこの家には小学生の女の子がいて、その子が描いた絵なんだけど・・・」
ウサギ「こりゃたまげた! ネズミくんに絵の趣味があったとはね」
ネズミ「失礼な!俺だって絵くらい見るさ。
でも趣味と言われるとそれは一寸違うかな?って思うけどね」
ウサギ「ネズミくんは見るんじゃなくて、かじっちゃう方だよね」
ネズミ「余り馬鹿にするんじゃないよ!」
ウサギ「ごめん! それでどうしたの?」
ネズミ「その子の描いた絵には光り輝く十五夜のお月さまに耳の大きなミッキーマウスのシルエットがかぶさってたんだ」
ウサギ「ふ~ん! それで?」
ネズミ「ススキの穂とお団子がとってもリアルでさ、上手だなって感心したんだよ。
そのお団子をミッキーがかじろうとしているんだ」
ウサギ「それならネズミくんがそんなに機嫌が悪くなるって話じゃないよね」
ネズミ「続きがあるんだよ」
ウサギ「何? それ!」
ネズミ「う~ん! ミッキーって同じネズミなのに人気があるよね」
ウサギ「ミッキーに人気があって君にはそれがないから機嫌が悪いの?」
ネズミ「それは関係ない。分かっているから。
でもそこでちょっと悩んだんだよ。
その子が描いた絵のミッキーの代わりが俺だったらって」
ウサギ「また失礼なこと言っちゃうけど、誰もそんな絵は描きたがらないよ」
ネズミ「だから、そんなこと分かってるって!」
ウサギ「ネズミくんがお団子をかじったら、多分そのお団子は捨てられちゃうよね!」
ネズミ「そんなに追い打ちをかけるようなこと言わなくてもいいじゃないか!」
ウサギ「ごめん。僕には想像もつかない構図だったから、ついね」
ネズミ「ミッキーの人気があるのは耳がでかいからだろ。
だからさ、俺も耳をでかくしたらいいんじゃないかって、そう思ったんだよ」
ウサギ「ネズミくんって健気だったんだね」
ネズミ「それでさ、何回も何回も耳を引っ張ってみたんだ」
ウサギ「何か、感動してきた」
ネズミ「やっぱり痛いだけで大きくならなかった」
ウサギ「そうだろうね」
ネズミ「何だか一寸悲しくなってきてね」
ウサギ「慰める言葉が見つからない」
ネズミ「だから今日は機嫌が悪いのではなくて、落ち込んでるのさ」
ウサギ「そんなのって、ネズミくんらしくないよ!」
ネズミ「俺にはしんみりしてる姿が似合ってないってか!
シルエットでも散々《さんざん》なこと言われてさ、これじゃ身もふたもない!」
ウサギ「おっ! いつものネズミくんに戻って来たかな?」
ネズミ「あ~! ウサギくんにだんだん腹が立ってきた。
俺は俺でいいんだ!
もう帰る!」
ウサギ「良かった! ネズミくん元気になったみたいだ。
それにしてもあのネズミくんが人から嫌われないための努力をするなんて。
こんな一面があったとは、本当にたまげたな。一寸見直しちゃった。
まぁ、ネズミくんにも変えなくてもいいところが一杯あると思うけど。
でも自分ではそのことに気がついていないんだろうな〜」
どんなにカッコよくても、みんなが同じ顔して、同じスタイルしてたら、全然楽しくないかも!?
でもカッコよくなりたいと思っちゃう。でもなれない。このギャップが人生なのかな〜