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青い稲妻  作者: 北村美琴
第2部イリア編
99/152

谷底にて

 ウィィィン。


 その車はかなりのスピードを出してズェ-地区への道を飛ばしていた。

 真っ直ぐ前を見据えている。

 そこしか見えていないという感じ。

 そんなに急いで。

 脇目も振らず。

 邪魔なんてしたら怒られそうだ。

 ただ本部アジトの博士の命令ではない。

 では敵か?

 違う。

 ズェ-支部で休ませてもらっていたメドゥーとジンがその連絡を受けたのは、朝8時頃の事だった。

 用意してもらった朝食を頂いていた頃。

 食堂は避難して来た人々で混雑しているからと、わざわざ部屋まで食事を届けてくれた。

 食器も後でロボットが取りに来るから、片付けなくていいよ、とも。

 ここまでして下さるんだ。

 同じレジスタンスの仲間だし、まだ疲れが残っているでしょうと支部長は言ってくれた。

 本部も支部もない。

 感謝。

 リングを通じて話をしているのは、クローンだった。

 寝起きのフィールズ博士も、側に居るらしい。

 お互いにまだ少し寝たりないが。


「んで、フワア。クローンも休んだんだべ?」

『エエ。私モオ休ミサセテ頂キマシタ。ジンサン。眠イノデスカ? アクビヲシマシタヨネ』

「まあ、少し。んでもそんな事言ってられないべ。マグが勝手にアジトから出て行ったって、ほんとだべか?」

『エエ、本当デス。マグサンニハ黙ッテイルツモリデシタガ、朝ミンナガ話シテイタ事ヲ、チラリト聞イテシマッタノデショウ。マヤサン達ガ谷底ニ転落シタト知ッタ途端、車デ行ッテシマイマシタ。本来ナラマダ、医務室デ休ンデイナケレバナラナイオ身体デスノニ……』

「……」

『メドゥー、サン。デスカ?』

「……ああ。まったく、あいつは……。後先考えない所があるからな。分かった、俺達もすぐ向かおう。支度を、ジン」

『待つんだメド、ジン。実は、わたし達もマグの後を追いかけて、今車の中なんだ。一旦君達の所に寄るから、それから谷底に救出に行こう。大丈夫。マグだって、そう無茶はしないだろう』

「博士……」

『信じてるんだろう? 弟を』

「……はい」

『なら、決まりだ』


 通信が切れたリングを見つめながら、メドゥーは少し唇を噛んだ。


「メド……」


 ジンが心配そうに顔を覗く。


「ああ、ジン。済まないな。少し考え事をしていたんだ」

「謝る必要なんてないべ。マグの事が気がかりなんだべ? おいらだってそうさ」

「……悪い。博士達が来る前に支度を終わらせよう」


 ジンはわずかに微笑んで頷き、メドゥーはベッドの脇に掛けてあった上着を手にした。

 武器を確認して荷物を持つ。

 外に車が止まった音がした。


「メドゥーさん、ジンさん。ただいま本部アジトのフィールズ博士達がお迎えに上がったみたいですよ」


 女性支部長が伝えに来てくれた。


(よし)


 メドゥーとジンは顔を見合せる。

 ベッド回りを綺麗にして、部屋を後にした。


 キイイイ。


 急ブレーキで崖の上に停止した車。

 この下か、彼らが落とされたという谷底は。

 バリーの手首のリングの位置情報を探り、ここまで来た。

 車から降りたマグは崖っぷちに立ち下を眺める。

 高い。

 クラクラする様な高さ。

 日が登って明るい時にこれだから、闇夜で落とされた彼らはよっぽどの恐怖を感じただろう。

 川に、壊れた車が落ちているのが見える。


(マヤちゃん……)


 早く助けに行ってあげたい。

 が、人力でこの距離を降りるのは無理があるというもの。

 車の翼を広げて、ゆっくりと降下するか。

 運転席に戻ろうとドアに手を伸ばした時、リングが光っているのに気付いた。


「もしもし」

『マグか?』

「……!!」


 兄さん……。

 黙って本部を出て来た事が、バレてしまったんだ。

 リングを前に何も言えないマグに、メドゥーは語りかける。


『マグ。お前が勝手にアジトを飛び出して行った事はクローンから聞いた。その理由も分かる』

「……ごめん」

『怒ってはいない。圭一君達、いやお前の場合は特にマヤの事が気になったんだろう。俺達も彼女達の事が心配だ。だが俺は、お前の事も心配だ。まだ寝ていなくちゃならない身体だからな』

「……問題無いよ兄さん。自分は」

『お前自身がそう言っても、まだ傷は痛むだろう。俺達がそこに行くまで、谷底には降りるな』 


 メドゥーが話し終える前に通信は切られるだろう。


 プツン。


 ほら、やっぱり。

 焦る気持ちがマグを走らせた。


「メド。スピードを上げるか?」

「……お願いします」


 運転しているのはフィールズ博士。

 博士とクローン、ジンとメドゥーの四人が乗っている。

 メドゥー達が真夜中に運転していた車は、支部に置きっぱなし、ではなくてペンライトで小さくして座席の隅に置かれていた。

 一応、帰って来た時にアジトで点検する為に。

 目的地、と思われる崖の上に着いた。

 マグの車は見当たらない。

 降下している途中か。

 クローンが覗く。

 だが、谷底に確認出来るのは、バリー達が使用していた車だけだった。


「メドゥーサン。マグサンノ車ガアリマセン」

「何だって? そんなはずは……。まさか、場所を間違えたか……」

「いや。待つんだべメド。マグのリングの位置情報は……」


 崖の反対側を示している。

 木と草に隠れているその場所から、一発の銃声が轟いた。


「マグ!」


 メドゥーが草を掻き分けその場所に入る。

 荒れ地になっていた。

 車の側でマグが膝をついている。

 メドゥーが駆け寄った。


「兄さん……」

「マグ! 大丈夫か? 何があった?」


 メドゥーに支えられ、マグは車のドアに寄り掛かる。


「……平気だよ。マヤちゃん達を助けようと谷底に降りようとした時、何かに車ごと引っ張られてこの場所に……。そしたら、ロボットが襲って来たんで、応戦してたんだ」

「そうか……。何かって、急に掴まれたのか?」

「うん。一瞬だったんで、良く分からなかったんだ。あっという間にここに引きずり込まれた、って感じで……」

「う~ん」

「メドゥーサン。何カアリマシタカ? ア、マグサン」


 メドゥーが腕を組み頭を悩ませると、クローン達も荒れ地に入って来た。


「マグサン! 無事ダッタノデスネ。良カッタデス。モウ、心配シタノデスヨ」

「ごめん、クローン。博士達にもご迷惑をかけました。何者かに、車ごと引っ張られて……」


 がさがさ。

 ロボットが四体。


「メド、これは……」

「ああ。おびき出されたって感じだな。博士、クローン、先に圭一君達の救出をお願いします!」

「メド、君はどうするんだ!」

「俺はここでロボット達を食い止めます。博士達が救出しているのを邪魔されないように」

「なら、おいらも残るべ」

「自分は……」

「マグ。お前は自分で決めろ」

「……済まない兄さん。自分はやっぱりマヤちゃんの所へ行く! 博士、お願いします」

「……うむ」


 博士は一瞬躊躇したが、バリー達が待っていると考え直し、マグとクローンを引き連れ、車の所へ戻って行った。


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