任務終了
「何トカ、逃ゲ切リマシタネ」
アジトの研究室でフィールズ博士とクローンがホッと一息ついていた。
画面を見ながら圭一達の任務をサポートし、彼らが無事ロボットを撃退したのを確認したのち、椅子に深く腰掛け、安堵の声を漏らした。
「うむ。ズェ-地区での人々の避難は、あのご家族で最後だったらしい。歩きで行った人々も、支部のメンバーの支援を受けて、全員到着したという事だ」
「ナラ、後ハメドゥーサントバリーサンノ車ガ支部ニ到着スレバ、任務終了トイウ事デスネ」
「そういう事だ」
これで安心、と博士はマグカップを手にする。
「ホットミルクデスカ? 博士」
「ああ。もうすぐ夜も更けるだろう。眠るとしても、仮眠くらいだからね」
「ト言ッテモ、夜明ケマデマダ二時間アマリアリマスガ」
「そう言うな。メド達も寝ていない。寝るのは完全に終わってからだ」
「ハイ」
またモニター画面に目をやる。
メドゥーとバリーの車は、ズェ-支部に向かって谷を駆け抜けていた。
他に敵が追いかけて来る気配は無い。
ロボットの襲撃は、あれで終わったと思われる。
圭一、中島、マヤは疲れた様に黙ったままだった。
バリーは彼らの様子を感じつつ、あえて話しかける事もなく前を見て運転している。
バリー自身もやっと落ち着いたという感じなのだ。
ただ余裕を残しつつ、緊張は完全にはほどけていない。
ご夫婦をズェ-支部に送り届けるまでは……。
そのご夫婦、特に旦那さんの方は、メドゥーの運転する車の後部座席で、背筋を伸ばし膝の上で拳を握って固くなっていた。
隣の奥様は身体を預ける様に寄り添いながら、少しうつむき加減で横に座っていた。
スッ。
旦那さんの拳の上に自分の手を置く。
助手席のジンがそっと振り向いた。
「あともうちょっとで目的地に到着しますべ。だから、そんなに固くならないで下さいだべ」
「ありがとうございます。けど……」
「怖かった、だべ? でもおいら達が最後まで守りますべ。だから、あと少しの辛抱ですべ」
「は、はい」
旦那さんは奥様の顔を見て、少し緊張を崩した。
奥様はさっきより強く手を握る。
メドゥーが小さな声でジンに聞いた。
「ジン、バリー達は?」
「ちゃんと車はついて来てるべ。ロボットにバリー達の車が狙われた時はハッとしたけど」
「そうか。良かった。ん?」
車のモニターに赤いランプが点滅している。
ブザーが鳴った。
AIが危険を知らせてる。
後ろのご夫婦が驚いてビクッとなった。
「な、何です? どうしたんです?」
「あ、あなた……」
「今原因を調べます。落ち着いてください」
メドゥー自身も心の中では焦りながら、表面上は冷静を装っていた。
隣に座るジンもそう。
奥様は祈る様に背中を丸めて縮こまっている。
その肩を旦那さんが抱いていた。
一旦車を停車させる。
谷は無事越えたので地上の道に降りた。
「ジン……」
「分かってるべ。おいら車の回りを調べて見る。メドはそのまま車に乗ってるんだべ」
「了解」
ジンが車から降り、車の周囲をくるくる回り触ったりして調べる。
車自体に異常は無い様だ。
今度は車から目を離し遠くを見る。
敵の姿は確認出来ない。
ただ一つ違和感が。
「メド、バリー達の車はどうしたべ?」
後ろをついて来ているはずの仲間の車が見当たらない。
エンジンの音も聞こえないってのも妙だ。
これは怪しい、と思ってジンが車に戻ろうとした瞬間、そのバリーから通信が来た。
『ジン、メド……』
「バリー? 今、何処だべ。何があったんだべ?」
『……触手が……。車のブザーが急に鳴り響いたと思ったら、ガクンと……、谷に……』
「触手? 谷? どういう事だべ?」
バリーの言う事はなんだか要領を得ない。
「バリー? バリー? 大丈夫だべか?」
『……』
「バリー!?」
『……DEX 、が……』
そこで通信はプツンと切れてしまった。
「今、DEX って……」
メドゥーが青い顔をして聞いた。
ジンは頷く。
「DEX がバリー達に、何かしたっていうのかよ……!」
「……」
「ジン。車に。バリー達を助けに行く」
『いや。君達はそのままズェ-支部に向かってくれ』
ジンが車に乗ろうとした時、次は博士から通信が届いた。
「博士……」
『メド、ジン。わたし達の所にも知らせが届いた。見張っていたメンバーの話によると、ある程度エネルギーを吸収したDEX が、森から移動を始めたそうだ。その身体は、今までの三倍近く膨らんでいる』
「な……」
『このまま奴が巨大化し続ければ危険だ。すでに力を奪われた生物達は黒く変色して枯れた様になってしまっている。森の木々も、地面も……、だ。君達は一刻も早くご夫婦をズェ-支部に送り届けるんだ。DEX の脅威から守る方法は、今の所それしかない』
「しかし、バリー達は……」
『DEX が森から移動し、逃げるバリー達の車を見つけて追いかけ、触手で何かした。と考えればバリーの言った事とつじつまが合う。彼らの救出はわたし達の方で行おう。君達は安全にズェ-支部にご夫婦を送る事を考えてくれ』
「……分かりました」
ジンが乗り、車は飛行して行く。
(マヤ……。圭一君……。中島君……。バリー……。どうか、どうか無事でいてくれ……)
運転しながらメドは、彼らの安否を祈った。




