ズェ-支部へ
パッ。
マヤとジンのリングの明かりの中、ロボットに人質に取られた奥様が小さな悲鳴を上げながら震えていた。
その脇では妻を離せと旦那さんが妻の体を捕まえているロボットの腕を引っ張っている。
が、もう片方の腕で払いのけられた。
「……くっ」
しまった。
自分達がロボットを見失っているうちに、ご夫婦を人質に取られてしまった。
ロボットは地べたに膝を付けている旦那さんの額近くに指先を近づける。
そしてマヤ達を見た。
無言だが、分かる。
『武器を置け』
そう言いたいのだろう。
そうしなければ人質を殺す。
マヤ達は黙って口を結び、手に装備していたナイフをゆっくりと地面に置いた。
『一、二、三……』
数えている様だ。
一本足りないぞ、という目で中島を睨んだ。
指先を光らせる。
分かったよ、と中島はナイフを落とした。
ロボットは笑う。
すると、
プップ~。
車の音。
それも二台。
メドゥーの声が聞こえる。
「マヤ、ジン! 俺が奴の頭を狙う。その隙にお二人を安全な場所に!」
ロボットは振り向いた。
その頭に向かって、
バシュッ。
光線銃が命中。
自動運転にした車から、メドゥーが銃を放ったのだ。
ロボットの腕がガクンと下がり、ジンとマヤは今だと走る。
旦那さんと奥様の手を掴み、メドゥーの車の所まで走った。
バリーの車も、その後ろに到着する。
「済みません。遅くなりまして。危険な目に合わせてしまいましたね」
車を止め、ご夫婦が乗り込んだのを確認してメドゥーが謝罪する。
「いいえ。お仲間の方々が守ってくれましたので、おれ達は無事です。あなた方も戻って来て下さって感謝しています。ありがとうございました」
と、旦那さんはメドゥーの言葉を聞き、笑って言ってくれた。
そう思って下さったのなら有難い。
間に合って良かった。
では、ロボットが復活する前にここを去りますか。
〈核〉を撃ち抜いた訳ではないから、やがて復活するだろう。
圭一が叫ぶ。
「メドゥーさん! 転んでいたロボットが……!」
やっぱり。
起き上がったか。
「圭一君、中島君。君達も車に乗るんだ! ロボットが仲間を連れて来る前に逃げる」
「分かりました!」
ジンはご夫婦と一緒にメドゥーの車に、マヤ、圭一、中島はバリーが運転する車に乗った。
ロボットのビームが発射される。
「おわっ!」
バリーの車の側面に当たる。
少し車が揺れた。
「バリー! 大丈夫だべか?」
「……車は傷ついたけど、運転に支障は無いと思う。出発しよう」
「分かった。お二人とも、掴まっていて下さいね」
メドゥーがエンジンをふかした。
ブロロロ。
車はその場を離れる。
ロボットは……、
カチッ。
宙に浮いた。
足裏から出るジェット噴射で空を飛んで追いかけて来る。
車の後部座席から圭一とマヤがその様子を見ていた。
「マ、マヤ……。あのロボット、空飛んでるよ」
「そうね。三年前から無人の飛行型の車とか、鳥型ロボットとか、直接ミサイルが飛んで来たりはあったけど、人型ロボットが飛ぶのは珍しいわね」
「……い、色々あったんだね」
「ええ。でもあの状態じゃ核を狙うのは難しいわね。どうすればいいんだろう」
「マヤ。僕達も飛行状態にして逃げよう。その方が今よりスピードが出る」
バリーが車をオープン状態にして、翼を出した。
地面から空に浮かぶ。
「行くよ。メドに追い付く」
メドゥーの車はすでに飛行状態で、先に進んでいた。
アクセルを踏む。
ロボットが離れた。
「やりました! 遠ざけました!」
中島が歓喜の雄叫びを上げる。
だがすぐにバリーが否定した。
「いや。まだだよ中島君」
車に設置されているAIが危険を察知したからだ。
ブザーが鳴っている。
ロボットはグンと速度を上げ距離を詰めて来た。
「な……」
後部座席の背もたれに手が届く。
屋根を開いてオープン状態にしたのが災いしたか。
振り払わないと。
マヤが光線銃の先端をロボットの額に当てた。
ロボットが笑う。
瞬間――、
「え?」
ロボットが消えた。
マヤが銃を撃った訳でもない。
圭一と中島が振り落とした訳でもない。
ましてやバリーが急にアクセルを踏んだ訳でもない。
何処へ行ったんだ。
リングから博士の声がする。
『マヤ。ロボットは車の下だ』
本部からフィールズ博士とクローンが心配して、様子を見ていてくれたのだ。
数分前女性が人質に取られた時も、クローンがメドゥーに通信を入れてくれたおかげで、危ない所で危機を回避する事が出来た。
『下に潜り込んでビームで車ごと壊す気だ。どうやら最新式のロボットらしい。姿を消すステルス機能を搭載している』
「え? けど科学者達はみな……」
『そう。居ない。改良したとしたら多分、DEX だ』
「えっ? DEX がなんで?」
『これは最悪の結論だが、DEX に移植されたというのが王様の脳だけじゃなかったとしたら……。もし、あのマッドサイエンティストの肉体の一部、もしくは細胞が一緒に移植されていたら、その彼の記憶が影響した可能性がある』
「そ、そんな事あり得る事なんですか?」
『手術で他人の臓器を提供された患者が、その提供主の記憶らしき物の一部を受け継いだという事例もわずかだが報告されている。可能性はゼロではない』
「そ、そんな……」
『それよりロボットを止めねばな。おお、まだぶら下がっている。車のスピードが出ているせいで、上手く底に張り付く事が出来ないでいる様だ。バリー、車を揺らす事は出来るかい?』
「やってみます」
バリーは右に左に急ハンドルを切った。
『駄目ミタイデスネ。シッカリト底ヲ掴ンデイテ落チマセン。ジェット噴射デ足ヲ掛ケナクテモバランスガ取レルヨウデス。ア、移動シマシタ』
「い、移動……、移動なの……? こっちは揺れて少し気分が……」
通信が博士からクローンに交代したが、圭一達はそれどころではないようだ。
「ご、ごめん圭一君。今直すから」
揺らすのは効果が無いと分かった以上、これ以上続けても無駄になる。
バリーは車を真っ直ぐに戻し、空中で停止させた。
後部座席の背もたれにロボットの腕。
上がって来た。
「戦士として長くやっているとね、こういう揺れも多少耐久性がつくのよ」
と言ってマヤはナイフを構える。
ロボットから逃げて車に乗り込む時、圭一と中島が地面に落とした四本のナイフを全て拾い上げて持って来てくれていた。
ロボットの上半身が見えた所で、マヤがナイフを核に刺す。
という予定だったが、そう上手くはいかなかった。
トン。
胸の核にナイフが届く前にロボットが飛んで、助手席の上に立ったからだ。
助手席には誰も座っていなかった。
まさか、底からじゃ駄目だったから、この状態でビームを撃つ気か。
「そうは、させない」
バリーだ。
胸にピッタリ付けられた銃口。
ロボットがビームを放つ前に、核に向かって光線銃を発射した。
ズドン。
終わった。
ホッと胸を撫で下ろす。
これで安心してズェ-支部に向かえそうだ。
「お~い。平気だべか~?」
メドゥー達の車も、ちょっと先の方で待っていてくれた。




