真夜中の逃走劇その3
はあ、はあ……。
みんなの荒い息が響く。
誰かを守りながら敵から逃げるというのは、そう簡単な事ではない。
しかも中には小さな子供が居る。
背中におんぶして走っているお父さんも大変だ。
「あ、あなた。代わりましょうか?」
ロボットが出て来た時はびっくりして悲鳴を上げていた奥様も、今は少し落ち着いている。
旦那さんが疲れているかもしれないと、子供を代わりに抱くのを提案した。
しかし、
「平気だよ。お前は両親を見ててくれ」
彼の両親、子供の祖父母に当たる人物のうち、祖母の方は少々足が悪い。
弟夫婦が見守ってくれているが、それでも敵に追われて逃走中の今、何かあっては心配だからと、旦那さんは奥様の提案を断った。
「ギー」
ロボットはしつこく追いかけて来る。
最後尾のマヤがリングの明かりを利用して光線銃を当て、一体転ばせた。
それでも残りはまだ居る。
戻って来るはずの車が、待ちどおしい。
「うっ、あっ」
暗闇で足元が良く見えない中、お婆さんが石に足を引っ掛けて転んだ。
中島が振り返る。
「だっ、大丈夫ですか?」
お婆さんは前のめりに倒れていた。
両手でガードしたおかげで顔をぶつける事は無かったが、擦ってしまった膝からは血がにじんでいる。
中島と弟さんでゆっくりと起こした。
「あ、ありがとね……」
お婆さんは笑うが、傷は痛そうだ。
マヤがやって来る。
「済みません。今、薬が……」
「……いいのよ、お嬢さん。気にしないで」
「とりあえず、私のハンカチで……。支部に着いたら、ちゃんと治療してもらいますので……」
マヤは自分のハンカチで、座っているお婆さんの膝の怪我の部分を巻いた。
少しは血が治まるはず。
時間も時間なので、父親の背中の子供は、すやすやと寝息を立てている。
お婆さんはお礼を言って立つ。
「ありがとね、お嬢さん」
「あ、はい。歩けますか?」
「なら、ワシに掴まれ」
お爺さんがお婆さんに肩を貸す。
お婆さんは喜んで、お爺さんの肩に腕を回した。
ゆっくり歩き出す。
反対側でフォローしているのは、長男のお嫁さんだ。
「出発していいんだべか? んじゃ、行きますべ」
お婆さんが動ける事を確認し、ホッと胸を撫で下ろしたしたジンが、再び前を向く。
足を踏み出そうとしたその一瞬、
ガサッ。
脇から、ロボットが現れた。
お婆さんの手当てをしている間に、追いつかれていたのだ。
襲われそうになったジンは、さっと避けて距離を離す。
腰のナイフで……。
と思って目を離した隙に、
「ジンさん!」
マヤの叫びが聞こえた。
ロボットの構えたビームの光が見えたのだろう。
マヤのリングの光が照らす中、圭一がロボットに体当たりする。
ドン。
ビームは宙を切った。
「サンキューだべ圭一君。おかげで当たらずに済んだべ」
「どう致しまして。って、わっ!」
弾かれたロボットの手が圭一を掴む。
至近距離。
そこへ中島が飛び込んで来た。
ロボットの胸の核。
そこめがけて、ナイフを突く。
ズバッ。
一体、消滅した。
「……助かったよ。中島」
「まったく、気をつけろよな」
「中島君、ナイフの扱い上手くなったね」
マヤが拍手をしながら褒めてくれる。
中島は頭を掻きながら照れた。
「へへっ。でしょ?」
「ええ。あ、中島君!」
今度は中島の後ろだ。
ナイフで同じように核を狙うも、振り向きざまでずれてしまった。
「ヤベっ」
「中島っ!」
ビームで撃たれる、と思った瞬間、
ズドン。
遠くから放たれた大砲のような物で、ロボットは消し飛んだ。
車の音が聞こえる。
「あ……」
支部の車だ。
戻って来てくれたんだ。
多分車に乗っているメンバーが、ロボットを攻撃してくれたんだろう。
車は家族の近くに止まる。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「あ、祖母が少し膝を擦ってしまいまして……」
「ならばすぐお車に。支部で手当て致しましょう」
「はい。お願いします」
祖父母と孫、それに弟夫婦が車に乗った。
子供は背中から弟さんの膝の上に下ろされた時に目を覚まして、人数的に車に乗れなかった両親と離れると直感して、その場でぐずり始める。
母親が慰めた。
「泣いちゃ駄目。わたし達もすぐに行くわ」
「グス。……本当、に?」
「ええ。だから先に行って待っていて。お婆ちゃんの事、よろしくね」
「……分かった。グス。必ず来てね」
「ええ、必ず」
お婆さん達を乗せた車は、支部に向けてUターンして行った。
その間も敵のロボットが襲いかかって来ていたのだが、マヤ、ジン、圭一、中島が家族と車を守る様に立ち塞がっていた為、家族に被害は無かった。
「あと何体だべ、マヤ」
「待って下さい。あと一、いいえ二体かも」
「あっ! マヤちゃんビームが……!」
ビシュッ。
光線がマヤに向かい飛んで来る。
手鏡は、あった。
薄暗くて距離感が良く掴めなかったが、上手く吸収してくれたようだ。
敵がもう一発撃つ。
その前に……。
圭一がナイフで核を刺していた。
「これで、あと一体だべか?」
「ええ。でも、何処へ行ったんです?」
姿が見えない。
圭一達は最後のロボットの姿を、見失ってしまった。
その時、
「キャアアアアア!」
子供の母親の方から、悲鳴が上がった。




