真夜中の逃走劇
用意してある車に乗り込む前に、圭一達は一旦部屋に戻り支度をする事になった。
寝間着のままでは恥ずかしい。
マヤもそそくさと部屋に戻り着替える。
そういえばメドゥーとジンも、リラックスした様な格好だった。
本人達は、〈部屋着〉だと言っていたが。
まあどちらでもいいけど。
想像するに、彼らも圭一達と同じく突然呼び出されたんだろう。
もしかするとメドゥーは医務室のマグの所に行っていたのかもしれない。
弟思いのお兄ちゃんだから。
昼間の神殿での戦闘で服が汚れたのだから、洗濯に出すのは悪い事じゃない。
このアジトの洗濯機は大きく、洗い、乾燥、そして意外に手間の掛かる畳みまでやってくれる。
綺麗に畳まれた衣服が出て来るのを見るのは、実に気持ちいい。
中はどうなっているのか分からないけど、ロボットの腕みたいのが出て来て、一生懸命畳んでいるのかな。
上の方に汚れ物を入れる扉があり、下の出口から畳まれた衣服が出て来る。
けれど仕分けはされていないので、これが俺の、私のというのは自分達で見るしかない。
ま、畳んでくれるだけありがたいけどね。
支度が済み、圭一達が外の車の所に集まる。
この避難の手伝いにフィールズ博士は参加しない。
行くのは圭一、中島、マヤ、メドゥー、ジン、バリーだけだ。
博士は突然のアジトへの奇襲に備えて、圭一達のサポートをしながら、他のメンバーと共に残る事になる。
博士が彼らのサポートをして下さるのなら、一緒に来れないのは仕方ない事だけど、クローンは何故来てくれないの?
圭一は見送りに来たクローンにそれとなく聞いてみた。
「ソレハデスネ、ソノ……」
「……?」
「私ハ、DEX 二目ヲツケラレタ身デスカラ、危険ナ事ハサセラレナイト、バリーサンガ……」
「ああ、そういう事」
「済ミマセン圭一サン。私モ出来ルナラ一緒ニ」
「いいよ。無理しないで」
「アリガトウゴザイマス。ケレド、アナタ達ガ危ナイ時ハスグニ駆ケツケマスカラ」
「ありがと、クローン」
バタン。
車のドアが閉まる。
人々を避難させる事を考えて、車は二台。
メドゥーが運転する車には、マヤと圭一、中島が乗り込んだ。
前の車はジンとバリー。
メドゥー車はジンの車について行く事になる。
「じゃ、クローン。行って来るべ」
「ハイ。皆様、オ気ヲツケテ。何カアリマシタラ、連絡シテ下サイネ」
「分かったべ」
車は出発して行く。
夜の帳の中、クローンが手を振っていた。
バリーのリングに、ズェ-地区の支部長から、早めに避難を始めたと通信が入る。
避難を始めたのは、お年寄りと子供、怪我人などが多い。
彼らは車に乗せられ、少しずつ慎重に、一台づつ支部へと移動して行く。
他の人々は、歩ける者は歩いて。
車が支部から戻って来るのを、待っている人は安全な場所で待って。
もちろん待っている人々の側にも支部のメンバーが居て周囲を守っている。
圭一達の到着を待ちわびながら。
「……それじゃ、DEX は今この時間も稼働しているって事ですか?」
バリーから説明を受けたマヤが確認の為に復唱する。
「そう。〈奴〉の身体は機械で、眠らないからね。いくら王様の脳が移植されているとしても、意識を奪われたままでは……」
「そんな……」
「でもはっきりそうとは言えないよ。実はね、昨日住民達の避難を手伝っていた支部のメンバーの話によると、一時的にDEX が動きを止めたそうなんだ。その……。その時にロボットが出て来た、と」
「バリー。その一時的というのは、時間にしてどれくらいだったんだべ?」
「……えっと、確か一時間……。いや、一時間半くらいだって言ってた様な……」
「ならその一時間半の間に、眠ってたかもしれないべな」
「……え?」
「いくら身体が金属で出来ていても、脳が人の物なら、少しは休まないと疲れてしまうべ。徹夜も可能かもしんないけど、それって無理があるんじゃないべか? DEX もおいら達との戦闘で、傷ついてたんだし」
「そ、そうか……」
「それに自分が休んでいる間に、ロボットに人々を襲わせた、とも考えられるべ」
凄~い、ジンさん。と圭一と中島が褒めた。
ジンは照れる。
「そ、そうだべか。おいらは自分の考えを言っただけで、褒められる様な事は……。それにバリーの意見を否定した訳じゃないべ」
「分かってますよ。ジン」
バリーは気にしていないという風に笑う。
むしろ訂正してくれた事を、好意的に捉えているみたいだ。
メドゥーがそっと小声で、圭一達にだけ聞こえるように呟いた。
「ジンは俺達の中で一番のしっかり者だからね。一見、のんびりしてる様に見えても」
「そ、そうみたいですね。自己紹介の時に聞いたような……、聞かなかったような……」
「ん? メド、何か言ったべ?」
「い、いや。気にせず運転してくれ」
聞こえていたのかとメドゥーは心の中で焦った。
そのやり取りを見てマヤが少しプッと吹き出す。
向こうから明かりが見えた。
車のライトだ。
小さな子供達を乗せたズェ-地区の支部の車と、メドゥー達の車が今、すれ違った。
「避難の方は、順調に進んでるみたいだべ」
「そ、そうだねジン。あ、もう一台来た」
バリー車に近づいて来る明かり。
こちらに気付いて止まった。
窓から運転していた支部の者が顔を出す。
「本部の者達か。待っていた。車に乗って避難したいという人々が、まだ大勢この先の広場で待っている。乗せてやってくれないか」
「分かったよ。DEXの様子は?」
「設置した監視カメラの映像によると、相変わらず地中に触手を突っ込んでエネルギーを吸い取ってる」
「変わらないんだね。人々が居る広場は、DEX の力の影響は無い?」
「……今のところは。でもなるべく急いで欲しい」
「了解」
支部の車が行った。
バリーがアクセルを踏む。
メドゥー車も、その車に続くようについて行った。




