避難中その2
コンコン、コンコン。
誰かがドアを叩く音がする。
中島が話していた通り、その時刻は夜中だった。
誰かが迎えに来た、と思って圭一と中島は飛び起きる。
寝付けないと思っていたが、いつの間にか少し寝息を立てていた様だ。
う~。
昨日の今日でまだ体が痛いような気がするが、そんな事を言っていられない。
DEX の脅威から逃れなきゃいけない人達が、まだたくさん居る。
眠気まなこをこすり、中島が扉を開けた。
「コノヨウナ時間ニ済ミマセン。圭一サン。中島サン。博士ガ、オ呼ビデス」
そう言って扉の向こうに立っていたのはクローンと、そして圭一達と同じく少し眠そうなマヤだった。
この二人が並んでいると、まるで双子みたい。
見た目はほぼ、そっくりだから。
圭一と中島が見とれていると、口で隠す様にあくびをしたマヤが言った。
「……どうしたの?」
「あ、いや……」
パジャマ、っていうか、裾の長い上着に黒いスパッツを着用したマヤの姿を見るのが、初めてだったから。
マヤの寝間着って、こういう……。
ちょっとドキドキする。
自分達はといえばこの惑星イリアに連れてこられた時、ちょうど部活帰りで、荷物なんてほとんど無かった。
でも実を言うと、あの時クローンには少し待ってもらっていた。
何しろサッカー部のユニフォームが汚れていたし、制服だったので着替えなきゃいけなかった。
そこでユニフォームを家の洗濯物の中に出し、私服に着替え荷物を持って、あの道路に戻ったって訳。
中島は見送る為だったのか、それとも自分も行くと言うつもりだったのか、同じように自分の家から荷物を持って出て来た。
ただクローンやイリアの人々にとっては、圭一と中島両方に来てもらうつもりだったので、二人とも道路に出て来てくれてちょうど良かっただろう。
あの時点では圭一だけ呼ばれた、みたいな感じになっていたから。
クローンは文句も言わず待っていてくれた。
圭一の母親も含め、みんながイリアに向かう事を承諾してくれた時、ホッと安心した様に、
「イイデスヨ。コチラトシテモ急ナオ願イデシタカラ、ユックリオ支度ヲナサッテ下サイ。必要ナ物モオアリデショウカラ」
と、笑って。
そして圭一と中島が光に包まれた瞬間、中島は自分から言う必要は無い、と思ったんだろうな。
というかあの時は驚きの方が大きかったから。
何が何だか分からないまま、連れて来られたという感じ。
圭一の母親もびっくりしていた。
まさか中島君まで? という目で見て。
学校の方、巧く言ってくれた事を願っている。
「アノ、オ二人トモ、何カアリマシタカ?」
いけない、話がずれてしまった。
「あ、いや。ほんとに似てるなって」
「そうでしょ圭一。クローンは私の細胞の一部を利用して作られたから」
「でもマヤちゃん……。最初は変な気分にならなかった?」
「中島君の言う通り、最初はね。クローン本人が居る所で何だけど、初めは慣れなかった。私そっくりな人物が、もう一人居るって。私のクローンを作るって話をいきなりされて、話し合いの末承知して、分かっているつもりだったけど……。いざ対面してみると、ちょっとね」
「気持チ悪カッタデスカ?」
「気持ち悪いって、うん。少しね。……てか、その、クローン……」
「イイデスヨ。正直ニ言ッテ下サッテ。アナタガ私ノ事ヲドノ様ニ思ッテイラッシャルノカ、聞イタ事無カッタ気ガシマス」
「どのようにって……。本当は、頭が追い付いて無かったの。これこれこのようにって説明受けても、完全に理解出来てないから、曖昧な返事をしちゃう。『博士達が作って下さるなら、分からないけどお任せします。これでいいや』みたいな感じで。だから、あなたを一目見た時、戸惑った、っていうか固まった」
「ソウダッタノデスネ。デスカラ、アノ時微妙ナ表情ヲ」
「ごめんなさい。気を悪くした?」
「イイエ。誰デモ自分トソックリナ人物ヲ見タラ戸惑ウデショウ。ソンナ事ヨリ、博士ガ」
「そ、そうだったわ。行きましょう二人とも」
「う、うん」
圭一達は博士達が待っているという大広間へ急いだ。
「失礼します博士。遅くなりました」
マヤ達が扉を開けると、書類に目を通していたフィールズ博士とバリー、ジン、メドゥーが顔を上げた。
「ああ。圭一君、中島君、マヤ。このような時間に呼び出して悪いね。クローン、君もありがとう」
「イイエ。博士、他ノ方々ハ……?」
「ああ。わたし達だけだ。他のみんなは休んでいるよ」
「えっと、僕達……。ここに集まったメンバーだけで出掛ける、という事ですよね?」
「今すぐという訳ではないが、まあそういう事だ圭一君。これはDEX が今居る森の北に位置するズェ-地区の支部長から届いた報告書だがね。そこのメインコンピューターが計算したところによると、DEX の動きが予定より早くなっているらしい」
「早クナッテイルトイウノハ、DEX ガエネルギーヲ吸イ取ルスピードガ、デスカ?」
「……そうだ。ズェ-地区の人々の避難は朝を予定していたんだが、この分だと夜中の内から動いた方がいいかもしれない。と報告が来た」
「それで僕達が……」
博士から報告書を受け取り、クローンの説明を聞きながら圭一と中島、マヤは紙面を眺める。
メドゥーが切なそうな表情で言った。
「疲れて眠っていたい所、来てもらって済まないね。本当なら〈お客様〉の君達に、こんな事をしてもらって……」
「いえ、メドゥーさん。いいですよ」
報告書を机の上に置き、圭一達は笑った。
「気にしないで下さい。僕達は自分の意思で惑星イリアを救いたいと、この星に来たんですから」
「そうそう。〈お客様〉より地球の〈仲間〉と思って下さい。その方が俺達も緊張しないで済むんで」
「あら? 中島君、緊張してたんだ」
「そ、そりゃあマヤちゃん俺だって……。博士とか偉い人に会えば……」
「フッ。ありがとう中島君、感謝する。でもそんなに緊張しないでくれ。俺達は星は違えど、同じ人間だ」
中島とマヤのやり取りに、メドゥーの顔もほころぶ。
それに対し中島は、
「は、はいメドゥーさん。よろしくお願いしますっ」
まだちょっと固いようだが、元気に返した。
「それで僕達はそのズェ-地区の人々の避難を手伝えばいいんですね?」
「そうだべ圭一君。とりあえずおいら達だけで出発する事になる。ズェ-地区に着いたら手分けして住民の避難だべ。その事はもう通信で、支部のメンバーが人々に伝えてくれたみたいだから」
「分かりました」
「暗い中の避難で、不便な事もあると思うべ。でも、頑張るべ」
「はい!」
大広間のメンバーが、手を重ねた。




