避難中
博士からの通信も慌てた様に切れた。
何しろ、『DEX の力の及ぶ範囲に居る住民達が避難しているから、その逃げ道を確保するのに力を貸して欲しい』という各支部からの要請ではなく、『その住民達を敵のロボットが襲っている』という話が来たものだから、博士が慌てるのも無理はない。
しかしどちらにしろ、こちらが出動しなければならないだろう。
が、博士の通信は、詳しい経過が分かるまでまだ待機、と言って切れた。
そんな話を聞かされて、待機と言われても……。
気持ちは焦る。
大変な目にあっている人達が居るんだ。
「ど、どうしましょうメドゥーさん。僕達、このままここに居ていいんですか?」
通信を受けた医務室で、圭一がメドゥーに尋ねた。
が、メドゥーも、ベッドに横になっているマグも、椅子に座っているマヤも黙ったまま口をつぐんでいる。
「あ、あの……」
「圭一」
マヤが椅子から立ち上がった。
真っ直ぐ圭一を見つめて側に歩いて来る。
「圭一。焦らない方がいいわ。多分いま研究室では、バリーさんや博士、ジンさんやクローンが各支部と連絡を取りながらどうするか決めてる。こういう時は、焦ったら負けなのよ。落ち着いて、もう一度博士達から連絡が来るのを待ちましょう。大丈夫。すぐ出撃しないって事は、支部のメンバー達が頑張っているって事。信じましょ。彼らも同じレジスタンスのメンバーだから」
「マヤ……」
「な~んて。敵に捕まっていた私が偉そうな事言える立場でもないけど」
「そ、そんな事……」
「でもね。私達もつい数時間前、DEX の集団と一戦を交えて来たばかり。まだ疲れも残っているそんな状態で援護に向かっても、逆に迷惑をかけてしまうだけよ」
「残念ですけど、マヤちゃんの言う通りです」
マグが身体を横向きにして圭一と中島を見、話に入って来た。
マヤはマグが圭一達を見やすいよう、体の向きを変え、一歩後ろに下がる。
せっかくマグ自ら圭一達と話をしようとしているのだ。
「圭一さん中島さん。あなた達は来たばかりですからご存じないのかもしれませんが、こういう時、不用意に功を焦ってしまうと、逆に敵にやられてしまいかねません。DEX は優れた知能を持っています。動かないフリをして、二重三重にも罠を用意しているかもしれません。そうなると、住民達だけじゃなく、支部の仲間達まで危ない目に合ってしまうかも」
「マグさん……」
「勘違いしないで下さい。自分はあなた達などどうでもいい。ただ、マヤちゃんに危険が及ぶ可能性があるのを防ぎたいだけです」
それでもいい。
忠告してくれただけでも。
ツンデレ的な言動でも、彼なりにちゃんと話してくれたって事なんだから。
「マグさん」
「だから……。とりあえず今はこの基地に居て。勝手な行動はしないで下さい。いいですね?」
「分かりました」
勝手な行動も何も、外に出たって何も分からないんだから。
まあいいけどね。
マグはまたプイッと背中を向ける。
やれやれ。
まあ、とりあえずここは言われた通りにしますか。
気持ちが変わらないうちに。
メドゥーはマグの事を後は医務室のスタッフに任せて、食べ終わった食器を片付けたあと自分の部屋に戻るという。
なら、
「マヤちゃん、俺達も」
「そうね。中島君」
マグの様子も見れたし、話も聞いてもらえたし、そろそろ自分達も部屋に戻ろうかと、マヤ、圭一、中島はメドゥーの後に続いて扉に近づいた。
カチャ。
ドアノブに手をかける際、圭一はもう一回マグが気になって一瞬振り向く。
メドゥーとマヤには笑って挨拶をしていたマグだが、圭一と目が合った途端、視線を下にずらそうと動かした。
圭一もそれを察してそのまま部屋を出る。
「……ふう」
彼らが居なくなった後、ベッドの上でマグが一人、ため息をついた。
それはどういう意味のため息なのか。
圭一と中島が出て行ったという安堵なのか。
それとも自分の態度に対する悔いなのか。
それは本人にしか分からない。
ーー夜。
圭一達が部屋に帰ってから一時間後、今度はバリーから通信が来た。
圭一と中島はリングを手首に填めていないので、部屋のモニターでそれを受ける。
それによると、今日避難していた住民達は、支部のメンバーの支援を受けて、無事ロボットの襲撃から逃げ切り、各支部に全員到着したという事だった。
尚、連れて来ていた彼らのペットも元気だという。
良かった……。
安心した。
明日は二回目の避難計画を実施するそうだ。
だが明日はより厳しくなるだろう。
DEX が触手からエネルギーを吸い取る範囲も広がって来ている。
だから圭一も呼ばれるかもしれない。
その為に今、準備をしている。
まあ、準備といっても、せめて英気を養う事。
「どうした圭一。明日の為に、早く休んだ方がいいぞ」
「そうなんだけど中島。なんだか興奮して眠れなくって」
「はは。実は俺もそうなんだよ。でももしかしたら、出るのは夜中になるかもしれないって言われたよな」
「……うん」
「ならなおさら……。っと、『電気オフ』」
中島の言葉に反応し、部屋の明かりが消える。
「……お休み、圭一」
「うん」
が……。
正直言って、すぐには寝れなかった。




