待機中その2
マヤは、マグが彼女自身を好いているという事実を知っているのだろうか。
レジスタンスの仲間として長い年月一緒に戦っている訳だから、少しは察しているかもしれない。
それも圭一君や中島君より長く。
それでも、彼女が選んだのが地球人の横野圭一君だった。
選ばれし者。
マグは立派な〈仲間〉だけど、〈選ばれし者〉にはなれなかった。
その事が余計マグの心を苦しめている。
兄として、その思いも分かるから辛い。
マヤは先頭に立って二人分の料理が乗ったカートを押し医務室に向かってくれているが、圭一君達は遠慮がちに後ろをそろりとついて来る。
彼らも気を使ってくれているのか。
医務室の扉の前でマヤが止まる。
「メドゥー、さん」
小声で呼ぶ。
ああ。俺が扉をノックするのか。そりゃそうだよなと思って近づいたら、マヤがその手を掴んで止めた。
「どうしたマヤ? ……!?」
ポトッと、涙が落ちた。
「マヤ?」
「マヤちゃん」
圭一と中島の二人も駆け寄ってくれる。
「……ごめん、なさい」
おいおいそっちはキッチンの方だぞ。
何でまた戻っているんだ。
医務室とキッチンの間で立ち止まったマヤを追いかけ、三人が集まる。
「どうしたマヤ。マグに会ってくれるはずだったんだよな?」
「ええメドゥーさん。そのつもりで来たんですけど、いざ扉の前に来たら、やっぱり……」
「会えない、と?」
「マグが嫌い……、って訳ではないんです。一緒に戦って来た仲間ですから。初めて出会った時から、年上なんですけど、自分の事は友達だと思って呼び捨てで構わないって言ってくれて。何となくですけど、マグとは良く視線が合うな、とも思っていて……。それって、その……。思っていてくれていたって事ですよね。今から考えると。でも、私はもう圭一と会っていて、こんなに『好きだ』って思えたのが彼以外にいなくて。その……」
「マヤ……」
「済みません。本当にごめんなさい。その……。マグが圭一達を嫌ってる、と。圭一達が、危険な目に合った、と……」
「……誰かから、聞いた?」
「ジンさんが。それで私、圭一達の良さを少しでも分かってもらえたらと思って……。でも、独りよがりかな、って思いもあって……」
「そうか」
マヤが押していたカートをメドゥーが代わりに引き、医務室の扉の前へ。
「メドゥー、さん……」
「マヤ。お前の言う通り、それは独りよがり、自惚れだ。自分の気持ちをきちんと伝えもしないで、相手にだけ分かってもらおうなんて、虫が良すぎる」
「……!!」
「最初に俺が入るから、お前達は後から来な。ま、大丈夫だから」
叱っているようで最後は笑って部屋の中に入って行く。
こんな優しさはずるいよ。
泣いちゃうじゃん。
マグを見舞いに行くって見せた笑顔が、ほんとは泣きたいのを我慢して作ってたって気が付いて。
だから、『大丈夫』って……。
ほんとに、もう。
目頭を押さえて塞ぎ込むマヤの肩を、後ろから圭一が抱く。
マヤはビクッとして顔を上げた。
「マヤ……。僕、気にしてないから」
「圭一……」
「ただ、マグさんの気持ちも分かるな」
「……」
そうだよね。
メドゥーさんの言う通り、自惚れ、自分勝手だったかも。
マヤは圭一と向き合った。
「圭一、中島君。私、マグときちんと話してみる」
「マヤ……」
「私、逃げていたかもしれない。自分自身と向き合う事、マグと向き合う事。傷付く事を恐れ、無意識に正当化していたんだわ。分かってくれるはずだと。だけど、それは違うって思い知らされた。今のメドゥーさんの言葉で。だから私、自分の言葉で、きちんとマグに伝えてみるわ。あなた達の事」
「……うん」
その時、医務室の扉が開き、中からメドゥーが呼ぶ。
まるでタイミングを計っていたかのように。
マヤが先に入り、遅れて圭一と中島が後ろから。
メドゥーがサッ、とマグのベッド脇の椅子をマヤに譲る。
マグはメドゥーの後ろに立っている圭一達をチラッと一瞥して、プイッと横を向いた。
マヤが椅子に座る。
持って来た食事は、半分以上食べたようだ。
「マグ……」
マヤが話しかけても横を向いたままのマグ。
マヤはそれでも構わないと、静かに話を続ける。
「マグ。あなたがずっと私の事を見ていてくれたのに、その気持ちに気付くのが遅くなってごめんなさい。でも、私にはもう好きな人が居るの。その人がこの、〈横野圭一〉さん。彼は地球で私に、愛する事の意味を教えてくれた。だから私は、地球で得た経験を、惑星イリアの復興に役立てようと考えた。彼が居なかったら、自然が甦る事も無かったわ。もちろん、あなたやみんなの協力もあったおかげだけどね」
「……」
「中島君も素晴らしい人よ。彼も圭一と同じく、異星人である私への偏見が無かった。地球での友達として、共に戦ってくれた。現に今も友達として、ここに来てくれている。心強いわ」
「……だから君は、〈選ばれし者達〉として彼らを選んだ」
「ええ、そうよ」
「幸せ?」
「……え?」
「今君は、幸せ?」
マグが真剣な眼差しでこちらに振り返り問う。
マヤは力強く頷いた。
「ええ。幸せよ」
「……そう」
マグの視線が圭一と中島に移る。
「圭一さん、中島さん」
「はい」
「約束して下さい。彼女を、絶対に守ると」
「……」
「して下さい」
「ええ。僕達はこれからもマヤを、命懸けで守ります」
「……絶対ですよ」
圭一達の返事を聞き、やっとマグがかすかに口元を緩めた所で、博士からリングに通信が来た。
『みんな、DEX の力から逃げている住民達に、今度はロボットが襲いかかっているそうだ。支所のメンバー達が食い止めてはいるそうだが、場合によってはわたし達も行かなくてはならないかもしれない』
「……!!」
一気に圭一達に、緊張が走った。




