ひまわり畑にて
圭一がマヤと出かけるのに連れて来た場所。
それは今開催中のひまわり畑でのイベントだった。
入園料は500円。
綿飴や焼きそば、輪投げや射的などの屋台があった。
もう並んでいる店もある。
その他に熱気球に乗る事が出来るが、それは別料金で、圭一達にとっては高いと感じる金額だった為今日は諦めた。
太陽の花。
中には圭一達の背丈より高く咲いているひまわりもあった。
「凄い。綺麗」
マヤはひまわり畑に入って笑っている。
時々来るミツバチでさえも、彼女と一緒に楽しんでいる様子。
そんな風に無邪気にはしゃぐ彼女の笑顔は、透き通った青空の様に輝いていた。
(良かった)
圭一は心から、この場所を選んで良かったと思った。
あんなに楽しんでくれている。
夕べ家族と相談して決めたかいがあった。
「圭一」
マヤが呼ぶ。
「ね。圭一は見ないの?」
「見てるよ。本当に圧巻だね、このひまわりは」
「そうね。ほんと圧巻。まるで包まれている様ね。ひまわりって言うの? 太陽の花? フフッ。正にそんな感じね」
マヤはひまわりの隣に立ち、見上げる。
「イリアにも花は咲くけど、こんなに高く伸びる花は無いわ。せいぜい腰くらいかな」
「ふ~ん」
「私の好きな花、あなたにも見せてあげたいわ。青い花でね、鈴みたいなの。一つの茎に、その小さな花が三つぶら下がってる」
「へ~。僕も見てみたいな」
「ええ、是非! あ、圭一、あそこに馬がいる」
白いポニーだ。
どうやら無料で背中に乗せてもらえるらしい。
マヤは駆け寄る。
以前、彼女に圭一は聞いた事があった。
惑星イリアも牛や馬、犬などの動物はいるんだと。
地球と似た環境、似た動物。似た文化。
でも違う物もある。
宇宙って不思議だ。
「圭一、見て」
考え事をしていた圭一の前で、マヤはポニーに乗せてもらっていた。
飼育係の人が綱を引っ張る。
「わお」
馬は知っていても、乗せてもらうのは初めての様だ。
少し恐怖を感じたか、前のめりになる。
しかし、
(マヤ、スカートなのに……)
そう。
今日のマヤの服装は、花柄のロングスカート。
ロングだったからまだ良かったものの、これがミニだったら。
(ポッ)
圭一はスカートの中身を想像し、顔を赤く染めた。
「圭一、顔赤くない? 熱ある?」
ポニーの背中のマヤが尋ねた。
まさか彼がエッチな事考えてるなんて思ってないのだろう。
圭一は誤魔化した。
「ち、違うよ。白い馬に乗った君が眩しくて」
自分でも浮いたセリフだと分かっている。
だけど半分はほんとなんだ。
圭一はカメラを取り出していた。
カシャッ。
夢中で撮る。
彼女の姿を映していたい。
ずっと、一生、忘れたくない。
いつの間にか、そんな思いに溢れていた。
彼女が好き。
今までの中で一番輝く、彼女が好き。
「ん、あれ?」
レンズがぼやけている様に感じる。
確認の為、一旦カメラを下ろしてみた。
その隙に、マヤの姿が見えなくなる。
顔を上げると、誰も乗せていないポニーは、もう所定の位置に戻っていた。
「ねえ」
横から声がした。
圭一は驚く。
いきなり、脇からマヤが現れた。
「どうしたの圭一。泣いてるの?」
「え?」
圭一は自分の目の下を触る。
無意識のうちに涙が流れていたようだ。
マヤへの思いが溢れてぼうっとしてしまっていたか。
彼女がすでに隣に居たのにも気付かなかった。
さっきのレンズのぼやけ。
あれは汚れじゃなく、逆光でもなく、自分の涙だったのか。
「大丈夫?」
マヤの心配そうな視線が圭一を捉えた。
どこか具合でも悪いのかと聞いてくる。
圭一は首を振った。
「大丈夫だよマヤ、心配しないで。具合なんて悪くないから」
「本当?」
「うん。目にゴミでも入ったかな。ははは」
気まずさと恥ずかしさで、圭一は笑って見せる。
マヤも、「圭一がそう言うなら」と、それ以上詮索する事を止めた。
風が吹いて来る。
ひまわりの花が揺れた。
圭一は手持ちのカメラを見て、ふと思う。
「ま、マヤ」
「なあに?」
「その、僕と……。つ、つ、ツーショットを撮って欲しいんだけど……」
言葉がもつれる。
上手く伝わったかな。
思わず口から出てしまった。
何しろこんな風に恋をするのも、女の子とデートをするのも、初めての経験だったから。
両親に協力してもらい計画を練って、頭の中で何度もシュミレーションして来た。
だから最初のエスコートは上手くいったつもり。
だったけど、
(き、緊張して来た)
さっきの涙の時から、変になってきた。
妙にドキドキしてる。
心の中じゃ、彼女の返事が怖かった。
オーケーならいいけど、もし駄目だったら。
断るのなら、はっきり言って欲しい。
(やるならやって)
そんな感じだった。
マヤは無言のまま立っている。
迷っているのか。
圭一の気持ちを考えているのか。
と思ったら。
「いいわよ」
あっさりとオーケーが出た。
「本当?」
「ええ。圭一は、気になる男の子だから」
き、気になるって……。
その意味を、考えている余裕は無かった。
「か、カメラの三脚……」
しまった。
三脚を持って来てなかった。
マヤの顔を見る。
「う~ん、困ったわね。私のこのリングに一応カメラ機能はあるけど、ここは人が多いし、私の星の機械を使う訳には……」
実はマヤの手首のリング。
これで買い物出来るだけじゃなく、脇のボタンを押すと上に透明なモニターが出て、残高と時計が表示されるらしい。
さらに指でスワイプすると、カメラ機能に切り替わる。
モニター自体がレンズになっているから、自撮りもオーケーだ。
「あ、あの人に頼もうよ」
マヤがこっちに歩いて来るおじさんを見つけた。
人が良さそうな小太りのおじさん。
二人は早速お願いしに行く。
「あ、あの」
「何だい?」
「あの、もしよろしければ、シャッターを押してもらえますか?」
「ああ、いいよ」
気前いい返事がもらえた。
圭一とマヤはひまわりの前で仲良く並ぶ。
「じゃあ、撮るよ。はい、チーズ」
カシャッ。
二人の初めての思い出の写真が完成した。
「ありがとうございました」
「どう致しまして。仲良くね」
おじさんは手を振り去る。
圭一達も感謝して手を振り返した。