博士と王その2
博士の真剣な眼差しに応えるように、圭一達も黙って博士の顔を見る。
余計な口は出さない。
映像の王様も静かに話を聞いているだけ。
「……先王と王妃様は、新しく作られたエア-タの駅の視察に行かれ、その帰りに……」
エア-タとは、惑星イリアでいう電車みたいな乗り物。
タイヤの代わりに空気で動く。
「飛行状態の車の調子が急に悪くなり、山に……」
「そんな……」
「墜落、って事ですか?」
圭一と中島の質問に、博士は首をコクンと傾ける。
「……厳密に言えば、岩肌に激突し、崖から落ちて行かれたのだ。わたし達が捜索に来た時にはもう……。運転手や警備の者含め、助からない状態だった。バリー、君はニュースでこの事を知ったんだね?」
「……はい。国に起きた重要な出来事なので、僕だけじゃなく、メド達も知っていると思います。でも、なんで、いきなり……」
「車が何故突然調子を崩したか、というのは、調査でも明らかにされなかったんだ。国のトップが乗られる車だから、メンテナンスは万全にしていたはずなんだけどね。ただ、後から聞いた話だと、車に搭載されたAIの回線が、遮断されていたそうだ」
「サポートシテクレルハズノAIノ回線ガ、デスカ? 博士ハ、ソノ調査二ハ加ワラナカッタノデスカ?」
「……残念ながらね。発見した時はもうバラバラで、爆発して焼けている状態だったよ。わたしは、王子様の頼みで、ずっとお側についていたんだ。ご両親を亡くされて、心労もおありだっただろうしね。実際、丸三日はお元気が無く、ほとんど泣いて過ごされておられた」
「ソウ、デスヨネ……」
「わたしとしても、しっかりと調査をしたかったというのが、山々だがな」
そこまで言って博士はうなだれた。
王子様の事はもちろん大切。
お側に仕え、守らなければならないお方。
だが科学者として、どうして事故が起こったのか、何故AIの回線が遮断されていたのか、自分の目で原因を究明し、確かめてみたかったというのも事実。
博士にしか分からない事もある。
好奇心がふつふつと湧き上がって来ても仕方ない。
「結局原因がはっきりと分からないまま、運転手のミスで起こった不幸な事故という事で処理された。しかしわたしは腑に落ちないのだ。この運転手は何回も先王夫妻を車にお乗せした事のあるベテランの一人。慎重な運転をする人でね、その人物がお二人をお乗せして岩に激突するなどと……。わたしの中では納得出来ないのだ」
(……そうだ)
「!?」
一同は振り向く。
動かないDEX の瞳から出ている映像の王様。
そのお方がついに話された。
ゴクッ。
何を語られるのだろう。
圭一達は唾を飲み込み静かに聞き耳を立てる。
王様の口が動いた。
(……フィールズ。私と過ごした日々を楽しかったと言ってくれてありがとう。私も、そなたと出会えて本当に感謝している)
「王様……。本当に、王様なのですか?」
(そうだ。私はこの国の王だ)
「王様……!!」
(フィールズ。私も父上と母上の死の真相を知りたかった。そなたも調査に携わっていないし、誰も教えてはくれなかった。皆が私の事を考えてくれていたのだろう。だが私とて、悔しかったのだ。が、その理由が、以外なところで分かった。父上も母上も事故で亡くなったのではない。嵌められて、殺されたのだ!)
「な、何ですと!?」
(そう、あの時、私は知った……。それを、誰にも伝えられずに……!)
王様の表情が怒りに変わる。
その出来事を思い出したかの様に、拳を握られた。
このお方がフィールズ博士や圭一達に伝えたかった事。
その内容はこうだ。
あれは正式に国王になられる、つまり戴冠式が取り行われる一ヶ月前の事。
その日王子様はいつもと同じ様に、博士に勉学を教わり、与えられた政務をこなされていた。
国王と王妃様はエア-タの駅の視察に出掛けられている。
「ふう」
一息つこうとお部屋に戻られる途中で、博士と鉢合わせする。
「おや王子様。お部屋へ行かれるのですか」
「うん。少し疲れたから。まさかフィールズ、また勉強とか?」
「はは、まさか。お疲れの王子様に、そのような事はさせられません。本日の勉強時間は、もう終わっております。しかし、王子様がどうしてもとおっしゃるのなら……」
「い、いやいや冗談だ。今日の政務も、まだ残っているしな」
「はは。お勤め、お疲れ様です」
そして、二人は通路で別れる寸前だった。
慌てた様子の女官が駆けて来る。
「王子様、フィールズさん。大変でございます!」
「ん? どうした?」
王子様は振り向かれた。
「国王様と王妃様の乗られたお車が、崖に転落されたと、連絡が入りました」
「なっ、何だと!?」
一瞬で青ざめる。
運命の日。
その後ショックで動けなくなった王子様を女官と兵士達に任せ、博士は後ろ髪を引かれるように、兵士の頼みでお車を捜索しに向かったのだった。
(……そして私はそなたの口から、すでに父と母が手遅れだった事を聞いたのだ)
「申し訳ありません。あの時、貴方の側に居る事が出来ず……」
(いや。むしろ私は、あの時そなたが最後を見届けてくれて良かったと思っている。それにその後も、ずっと私を支えてくれていたではないか。そのおかげで私は無事に国王として、戴冠式を迎える事が出来た)
「ええ。あの時の貴方は本当に立派でございました。とても勉強が嫌で、逃げていたお子とは思えませぬ」
(それを言うな。が、それこそが罠だったのだ。クーデターは、両親の死の日から始まっていた。両親の車のAIを遮断したのも、彼らの仕業だ。と同時に車の高度を下げた。突然の事に慌てた運転手が技術で持ち直そうとしたけれど、間に合わず、岩肌は目前に迫っていた)
「そんな……」
(その後も〈敵〉は水面下で着実に準備を進めていた。仲間を増やし、何食わぬ顔で両親の葬儀に参加し、私を支えるフリをしていた。そなた達を事故原因を究明するメンバーに入れなかったのは、国の転覆を企てている事を、そなた達に知られない様にする為だろう。私は、死の瞬間にその事実を知った)
「なんと……。わたしも騙されていたというのですか……。そ、それに死の瞬間とは……」
マッドサイエンティスト達が戦争を始めて宮殿を占拠したのは、王様が就任されて僅か半年余りの事。
追い詰められた王様と博士達は神殿に逃げ込んだが、そこも襲撃され、王様は博士達を逃がす為に敵の矢面に立たれ、最後を遂げられたのだ。
(フィールズ。そなたが無事で良かった。またこうして会えるとは……)
「お、王様……」
(瀕死の私の肉体は人々の前に晒され、その後、脳だけが培養液の中に入れられた。そしてDEXというメカに移植されたのだ)
「な」
(私はDEXというメカの一部となり、記憶も改ざんされ、愛すべき星を破壊した。しかしそなたらの力で、こうして失った記憶が蘇ったのだ。私を止めてくれて、礼を言う)
「お、王様……」
(だがフィールズよ。これは一時的だ。私の記憶は、また……、DEXに……)
「王様っ!」
(時間が、無い……。良く、聞いてくれ)
王様は苦しそうに、だが必死に続けられた。




