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青い稲妻  作者: 北村美琴
第1部地球編
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デートその2

 ウキウキな気分で圭一を待つマヤ。

 彼と会うのに、こんなに待ち遠しい日は無い。

 それほどこの日曜日が楽しみだった。


(今日はどんな所へ連れて行ってくれるんだろう)


 ほぼ毎日の様に会っているのに。

 彼といると癒される。

 マヤの中で、圭一という存在がどんどん大きくなっていった。

 待ち合わせの駅への道のりも、すっかり覚えてしまっている。

 途中にあるコンビニにも寄った。

 そこで圭一に買ってもらったアイスが、また美味しかった。


「マヤ、お待たせ」


 時間ぴったりに圭一が来る。

 マヤは笑顔で迎えた。


(ドキッ)


 今日のマヤは、いつもより可愛く見える。

 フリルの付いた白いブラウスに花柄のロングスカート。

 ポニーテールに結んだ髪。

 赤いリボンがフワフワと風に揺れる。

 普段髪を下ろしているから、尚更新鮮に見えた。

 夏の日差しが眩しい。


「待たせてしまったみたい。ごめんね。駅の外で」

「ううん、いいのよ。待っている間も景色を見てたから。行き交う人とか。それに私、中に入った事無いわよ」

「そう。そうだったね。それにしても、今日の服も素敵、だね」

「ありがとう。地球に来るから、服もいっぱい持って来たのよ。物体の大きさを変えるライトがあるから」


 と言ってマヤが見せてくれたのは、ペンライトみたいな物だった。


「それって、ペンライト?」

「うん。でもただの明かりじゃないの。見てて」


 と言って、腰掛けていたベンチに光を当てる。


「……!!」


 ベンチが小石ほどの大きさになっちゃった。


「ま、マヤ……」

「待ってて。すぐ元に戻すわ」


 再び光を当てると、ベンチは元通りに戻る。

 周りに誰も居なかったから良かったものの、もし誰かに見られていたら、騒ぎになっていたかも。


「マヤ、駄目だよ。そんな事をしちゃ!」


 慌てて注意する圭一に、マヤはシュンとする。


「ごめんなさい。ベンチは公共の物だったわね」

「それもそうだけど、僕の言いたい事はそうじゃなかったんだ。その、誰かにもし見られていたら、驚かせてしまったかなと。……あ、そんな顔しないで。君の星の技術は尊敬するよ。ただ地球では、批判する人も居るから」

「……そうね。分かってる。私の存在自体が、議論の原因に成りうる事が。信じてくれる人ばかりじゃないわ」

「その……、何て言っていいか。とにかく僕は信じるよ、君の事。さっきの道具も、見せてくれてありがとう」

「……本当?」

「うん。だから笑って。君のそんな顔、見るのは嫌だ」


 マヤは鼻をグシュンとさせ、泣き顔になっていた。

 圭一は強く言ってしまった事を後悔し、謝る。

 今日のデートは、成功させなきゃ。


「じゃあ圭一、今日は何処に連れて行ってくれるの?」


 マヤは少し甘えた様な声を出して、圭一に尋ねた。

 圭一は彼女がそう言うだろうな、という事を予知していたかの様に、フッと微笑みかける。


「今日は、もう行く先を決めてあるんだ。きっと君も楽しんでくれると思う。さあ、こっち」


 マヤの手を引いて歩き出す。

 駅から五分ほど歩くと、バス停があった。

 彼らが乗ろうとしているバスは9時20分。

 まだ少し時間が余っていたから、話をしてやり過ごした。

 惑星イリアにも、電車とバスに似た大型車があるらしい。

 だが電車はレールの上を走っていない。

 車体を浮かせ、空気の流れで動かしているそうだ。

 浮かすだけでも大変そうなのだが。

 そんな事を想像しているうちにバスが来た。


「これに乗るのね」

「そうだよマヤ。気を付けて」


 目的地までは十分ほど。

 マヤは圭一が二人分のお金を払ってくれるのを見ていた。

 バスから降りて小声で話す。


「目で見えるお金、私、初めて見た」

「そうか。惑星イリアには、お金が無いんだっけ?」

「違うの。昔はイリアでも地球の様に、コインや紙のお金があったらしいの。でも今は、これよ」


 マヤは手首に填めている、細い輪っかを見せる。


「ブレスレット、じゃないんだ」

「地球ではこれをブレスレットって言うのね。素敵な名前」

「そ、そうかな」

「ね。地球ではどんな機能がついてるの?」

「機能? いやファッションアイテムだから、機能はついてないと思うよ」

「そうなの? 私達の星では、これで買い物が出来るの。働いて得たお金は、ここに振り込まれる。私達子供の場合は、お小遣いかな。買い物したい時は、これを店の商品に翳すの。それで支払いが出来る」

「へえ。電子マネーなんだ」

「そうね。いわばこのリングは、お財布かな」

「でも、間違えて他の人に振り込んじゃったりする事はあるの?」

「それは聞いた事無いわ。このリングは国が支給してくれるんだけど、腕に巻いた瞬間、その人の特徴がスキャンされるの。後は私達自身が、自分の名前を登録すればオーケー。もし間違えたお金が振り込まれそうになった時は、リング自体がシャットアウトするわ」

「へえ。便利なんだね」


 悪い事考える人もいなさそう。

 と、圭一は思った。


「でもここは地球。この星のお金が無いと、圭一に迷惑をかけてしまう」


 マヤはさっき圭一がバス代を払ってくれたのを、申し訳なく思っている様だ。


「それなら、これ。僕の両親から。君に〈お小遣い〉だってさ」

「え!?」


 封筒の中には、三千円入っていた。


「だ、駄目よ圭一。私、貰えない」

「いいから、遠慮しないで。せっかく宇宙からお友達になりに来てくれたのに、何もおもてなし出来ないんじゃ、逆に申し訳ないって」

「おもてなしって……。私、圭一のお母さんから、美味しい料理も頂いたのに……」

「いいんだ。これは僕の気持ちでもあるんだ。君に出会わせてもらって、ありがとう」

「圭一……」

「それに困るでしょお金が無いと。物も買えないし。君にはこの星を、楽しんで欲しいから」

「あ……」

「使い方は僕が教えるよ。だから、ね」


 ありがとう。

 こんなに優しくしてくれて。

 マヤは感激して封筒を胸にギュッと抱いた。


「じゃあ、行こうか」


 圭一が手を差し出す。

 マヤは笑って、圭一の手を握った。

















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