希望の声
「う、うん……」
薄暗い部屋の中でマヤは目を開けた。
DEXの姿は見えない。
身体中の火傷の傷がヒリヒリと痛む。
「……つうっ」
手を当ててみたものの、すぐに痛みは消えない。
それに傷口はあちこちに広がっていて、彼女の手一つじゃとても足りるとは思えない。
DEXの放った電撃の威力が、それほどまで強かったという事か。
マヤは諦めて手を離した。
(圭一……)
悪夢の中からは無事に帰って来れた。
でも今は誰も居ない部屋で一人、水晶の中に閉じ込められている。
(どうしよう)
強い意志で悪夢からの脱出をはかったとはいえ、こうも寂しい部屋だとまた不安が押し寄せて来る。
その時――、
バアン!
彼女の耳に小さな爆発音が届いた。
「な、何……?」
と同時に微かな人の声。
「……マヤ、何処~?」
(あの声は……)
「圭一!」
思わず口から声が漏れる。
間違いない。
あの声は確かに自分の愛しい人、圭一の声だ。
「圭一!」
マヤは自分を奮い立たせる様に、もう一度彼の名を呼んだ。
来てくれたんだ。
自分を助ける為に。
イリアの仲間と共に。
きっと、きっと。
マヤは自分の身体を囲んでいる水晶をキッ、と睨んだ。
この窮屈な物体から出なければ。
そして早く仲間達に会いたい。
彼女は服の中に隠し持っていた刃渡り5センチほどの折り畳み式のナイフを取り出し、目の前の水晶を削り始めた。
諦めている暇は無い。
時間のかかる作業だが、傷を負った彼女の体では水晶を叩き壊す力は無く、かといって圭一達にあまり迷惑もかけたくもない。
そう、これこそが今の彼女に出来る全ての事なのだ。
(私だって……、私だって何かしなくちゃ……。きっと圭一達だって、罠を撃破しようと頑張っているはずなんだから……。そうよ。音を上げてたまるもんですか。絶対、負けないんだから……)
ガリッ、ガリッ。
水晶を削る音だけが周りに響く。
神殿の一室で、マヤの孤独の戦いが始まった。
バン、バン。
ガガガガガガガッ。
ドドドドドドド。
ベリッ、ベリッ。
神殿の天井に仕掛けられた銃口から、一斉に光線が狙う。
圭一と中島はそのレーダーに当たらないよう、安全な壁際に身を預け、メドゥー達の動きを見守っていた。
メドゥーが弾丸に当たらないよう素早く通路を右へ左へ移動しながら、手にしたナイフで罠を沈めて行く。
ジンとクローンが持っているビームガンでも正確に壁の光線銃を射抜いていた。
ビー、ビー、ビー。
銃声が止まった。
罠は全て静かに停止している。
プスプスプス。
天井の砲塔が煙を上げながらポトッと落ちた。
部屋の前のカメラのレンズは、メドゥーの一撃で壊されている。
「ふう」
安堵の声が漏れる。
ひとまず厄介な仕掛けは片付けた。
後は部屋の鍵を。
バリーと博士が走って来る。
ドアのモニターに機械を近づける。
何かを読み取っている様だ。
コンピューター画面に映し出されるランダムな数字。
暗証番号か。
どうやらこの数字の中から四つの数字を選ぶらしい。
「……くっ」
バリーと博士は迷った。
狙いをつけた部屋は制御室。
この中のコンピューターを操作出来れば、全ての部屋の鍵が開くはず。
何故制御室だと分かったかというと、この扉だけカメラが二つ設置されていたから。
だから大事な部屋かもしれないというのは予想がつく。
が、その前にこんな試練が訪れるとは。
「うむむ……」
扉の前で腕組みをして考える博士。
バリーが博士の方を向く。
彼の知識でもこれは駄目だったらしい。
中島が通路の前方を見て大きな声を上げた。
「み、みんな。あれを!」
彼が指差す先。
巨大な岩がゴロゴロと転がって来た。
それも通路ギリギリの大きさで、逃げ場も無い。
DEXの罠が発動したか。
「チッ」
一瞬躊躇する一同だが、すぐにメドゥーが思い出したように言った。
「ジン、あれを!」
「ほい来た!」
ガチャッ。
ジンが何かを武器の中から取り出し、メドゥーに渡す。
メドゥーはコンパクトに畳まれたそれを組み立てた。
「よっしゃ~!」
それは肩に担ぎ上げて使うバズーカ型のエネルギー砲だった。
「これで一気に吹き飛ばしてやるぜ!」
グッ。
メドゥーの引き金を握る指に力が入る。
岩まであと数メートル。
彼は標準を合わせて引き金を引いた。
ドバアアアン。
発射口から凄まじいエネルギーが流れ出る。
岩は原子の渦に巻き込まれ、一瞬にして粉々に分解された。
「やった! メドゥーさん」
圭一が喜びの笑顔を浮かべて彼の元に来る。
「す、凄え……」
中島まで驚いた顔して側に集まって来た。
メドゥーは、前髪をかき上げ、カッコよく決める。
「いやあ、俺にかかれば岩の一つや二つ、どうって事ないね」
「じゃ、わたし達も格好良く決めさせてもらおうか」
そう続けたのは、フィールズ博士だった。
博士が視線を送ると、バリーが頷く。
「分かりました博士。この暗証番号、DEXの造られた日や、ここを占拠した科学者達の誕生日でもなく……」
「この神殿がお好みだった、国家の……、亡き王の誕生日だ」
ビンゴ。
部屋の鍵は開かれた。




