出発
ブロロロロロ……ッ。
車のエンジン音が響く。
荷物はもう全部詰め込み、後はもう行くだけという段階まで来ていた。
「フィールズ博士、自動操縦装置二場所ノ入力完了デス」
「こちらも、人数確認OK」
「コンピューターも電源、機能全て異常無し。すぐにでも出発出来ます」
「武器もエネルギー充填、完了だべ」
クローンと三人の弟子の報告が終わった後、フィールズ博士は空に手を掲げ、叫んだ。
「よし、みんな! マヤを救出しに行こうか!」
「オ--ッ!」
(いよいよだ)
圭一の胸は炎が宿った様に熱くなっていた。
(マヤ、今行くからね)
その決意、彼女に届くように。
ブロロロロ。
基地から西の方向に向かって、車は軽快に進んでいた。
今のところDEXも敵のロボット達も攻撃して来ない。
偵察用の機体も見つからない。
これだったら楽だ。
攻撃して来ないのなら、一気に強硬突破が出来る。
無論ステルス機に出会ってしまったのなら別だが。
圭一とクローンが二人で襲われた時の様に。
もちろんDEXだって、彼らが強硬突破して来る事くらい、とっくに予測しているだろうし。
それでも、進むしかない。
緑の草が敷き詰められた草原の中に、一本だけ通っている車道。
その道の側に、ぽつりぽつりと小さな花の姿も見える。
三年前の戦争の時には無かった。
自然と人間の共存。
惑星イリアに残った人々は、マヤが地球から学んだ事を、ちゃんと実行してくれた。
命ある物を無駄に壊さない事。
欲望に任せて必要以上の物を作らない事。
自然な物はそのありのままの姿で残しておく事。
嬉しかった。
何だかとても。
車の窓からその風景を眺めながら、圭一は心がポッと温かくなるのを感じた。
そして、それは隣に座っている中島も同じだった。
彼はぼんやりと言った。
「綺麗だな、圭一」
「えっ?」
突然の中島の言葉に戸惑いながらも、圭一はその会話に合わせようとした。
「ほんと、綺麗だね。中島」
「……」
「中島……?」
自分から話しかけたのに、今度は中島の方が正面を向いて黙っている。
「中島。ねえ、中島ってば」
圭一はながらの腕を引っ張る。
「なあ、圭一」
反応はあった。
が、中島は何故か真顔だ。
そのまま圭一の方に向き直し、話し出す。
「こんな綺麗な景色、いつまでも目の中に留めておきたいよな」
「中島……」
こんな真剣な表情の親友を見るのは初めてかもしれない。
何が言いたいのか良く分からないが、とりあえず最後まで聞く事にした。
「俺な、正直言って、実感無かったんだ。マヤちゃんの事を信頼してないとか、イリアの人を悪く言うつもりは無いんだけど、未来的な構造のレールとか、空飛ぶ車とか見ても、惑星イリアの人達の思いっていうのが、俺の中でいまいち理解できていなかったの。でも、この景色を見て分かったよ。俺達の思いって、伝わるもんだなって」
「中島……」
「こんな小さな花が、ちゃんと生きてるんだな。不思議だけど、何かあったかいよ。この温かさを守る為に、俺達は生きてるんだな」
「その通りさ、中島君!」
突然二人の会話に誰かが割り込んで来た。
前の席で話を聞いていたメドゥーだ。
「メドゥーさん……」
驚きながらも中島は彼の方を見る。
メドゥーは微笑みながら言った。
「そう。俺達が戦っている理由は、ここにある暖かさを守る為なんだよ。例えそれが、たった一つの物でもね」
「メドゥーさん。そうですね」
中島が感激して頷いたのを見て、メドゥーも目を輝かせる。
こんな幸せな時が、いつまでも続けばいい。
そうしたら戦争なんて、何処かに消えて吹っ飛んじゃうのに。
圭一の心に、そんな思いがよぎった。
――だけど、現実は厳しい。
甘い夢ほど、シャボン玉の様に消えて行く。
車のエンジンが止まった。
一同に緊張が走る。
キリッと引き締まった眼差し。
無造作にコンピューターを操作する手。
今にも駆け出しそうな足。
そして、燃え盛る勇気。
その目は今、目の前にある神殿を見つめていた。
その扉の奥にいるはずの〈仲間〉と〈敵〉を。
ゴクッ。
唾を飲み込む。
額から一粒汗が落ちた。
ジリジリする緊迫感。
ザッ。
車から降りる。
メドゥーが扉に手をかけた。
ギギギギギギギ……。
古く錆び付いた音を立てながら扉は開かれ、中の暗闇に明かりが灯された。
奥まで続く通路が見える。
クローンがまず、一歩足を踏み入れた。
同時にフィールズ博士が叫ぶ。
「うむ、突入~~!」
「オ~~!」
気合いを入れ、惑星イリアと地球の共同戦士達は、DEXとの死闘とマヤの救出に向け旅立って行った。




