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青い稲妻  作者: 北村美琴
第2部イリア編
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意外な脱出方法

 レジスタンスのみんなと戦う事になるかもしれない。

 自分にとって家族同然に大切な仲間達。

 彼らの敵になるなんて嫌だ。

 それにせっかく地球から会いに来てくれた圭一や中島にも悪い。

 とりあえず、逃げなきゃ。


「そうなる前に、私、ここから出る!」


 一応叫んでみた。

 が、実際にこれからどう動けばいいのか分からないけど。

 父親の影が掴もうとする。

 背を向けた。

 走れ。

 逃げれるだけ。

 が、ここはDEXが作った悪夢の中。

 そう上手く逃げ切れる訳じゃない。


「キャッ」


 岩につまづき、転んだ。

 後ろは両親の影と百人余りのゾンビ。

 前は道が無い。

 この世界にたどり着いた時にくぐったトンネルさえも消えている。

 DEXが、好きなように操っていた。


「本当に、ここで……」


 ただの暗い闇だけとなった目の前の景色を見つめながら、マヤはポツリと呟く。

 支配される。

 DEXに、支配される。


(圭一……)


 嫌。

 嫌だ。

 せっかく来てくれたのに、会えないなんて嫌だ。

 一気に悲しい気持ちが押し寄せて来て、マヤはその場で泣き崩れた。

 仲間達の姿が頭の中に浮かぶ。

 いつも支えてくれた。

 悲しかった時、辛かった時、落ち込んだ時。

 泣きそうな時、淋しい時、不安な時。

 博士達が、いつも包み込んでくれた。


(私、だから強くなれたんだ)


 今、本当に分かった。

 みんなが居たから。

 一人になって、本当に心の底から、そう思えた。

 フィールズ博士。

 クローン。

 メドゥー。

 バリー。

 ジン。

 圭一。

 中島。

 みんなの顔が代わりばんこに浮かぶ。

 優しかったみんな。

 自分を支えてくれた全ての人々。


『マヤ。お父さん達は犠牲になんてならない。いつもお前の心の中に生きている』


 はっ。

 思い出した。

 お父さんは、ああ言っていたんだ。

 なのに、私は今、何をやっているんだろう。

 こんな所で。

 泣いてばかりで。

 もう駄目だと、全てを諦めようとしていたんだ。

 駄目。

 駄目だ。

 このままじゃ、絶対に駄目。

 マヤは自分の心に浮かんだ、もう一つの気持ちに気づいた。


(自分から逃げないで)


 そう、そうなんだ。

 自分に正直でいたいから、自分に嘘はつきたくないから、ただひたすらに前を見つめ歩き続けて来た。

 その気持ちは、まだ自分の中にある。

 涙を拭いた。

 立ち上がる。

 自分は今一人。

 でも、負けない。

 絶対に、負けない。


「ほう」


 マヤの目が燃えているのを見て、父親の影が問う。


「やる気だな、お前」

「ええ。そうよ」

「フッ。だがこの人数差では、到底お前の勝ちはあり得ない。それも頭に入っているか?」

「ええ。でも勝負を決めるのは結局力じゃない。それは心。心の強さよ」

「心の強さだと?」

「ええ。いくら力があっても、それを上手く使えるかどうかは、その者の心次第。弱くても勇気を振るい立てれば、勝機は見える。確かに人数では私の方が負けてるわ。でも、心の強さは私、ここにいる誰にも負けない」

「大した自信だな。ならば分からせてやろう。お前には力も心も我々には及ばないという事を」

「え?」


 ゾンビが一斉に襲って来た。

 周りを囲まれる。

 これでは逃げようがない。

 足を掴まれた。


「キャッ!」


 引きずられ、抱え上げられる。

 まるでお祭りで使う神輿の様に。


 〈このまま川向こうまで連れて行ってやろう〉

 〈そうだ。暴れるなよ〉

「い、嫌っ。離して!」


 必死に叫ぶが身動きが取れない。

 手足を掴まれ、ゾンビ達の頭上に掲げられ、運ばれて行く。

 マヤは出来る限りジタバタしてみた。

 そうしたら何かの拍子に取れるんじゃないかと。

 案外、それは思ったより早くきた。


 スルッ。


 マヤが少し足を高く振り上げた瞬間、足の方を持っていたゾンビの手が外れ、右足が自由になった。


 〈あっ〉


 勢いをつけて真下のゾンビの頭にかかとを落とす。


 〈……っ〉

「今だ!」


 ゾンビが頭を抱えてしゃがみ込んだ途端、横のゾンビがそれをチラリ見て驚き、腕の力がゆるんだ。

 左足も外れる。


「よし」


 両足自由だ。

 体を横に倒しなぎ倒す様に後ろ蹴り。

 バタバタとゾンビ達が転ぶ。

 足が地面についた。

 反動つけて体をねじると腕を掴んでいたゾンビの手も外れた。

 逃げられる。


 〈あっ、しまった〉

 〈待てえ〉


 待てと言われてもこちらは止まる気はない。

 追いかけて来るゾンビの群れを気にしながら、マヤは走るのを止めなかった。


 〈待てえ~っ!〉

 〈止まれえ~〉


 しつこいゾンビ達から早く逃げようと、マヤは走りながら言葉を発した。


「嫌よ。私は今すぐ()()()()()()()()!」


 ビシャッ。


 刹那、周りを包んでいた黒い闇に、一条の光が走った。

 いや、光というよりそれは……、

 ヒビ。

 そう、亀裂が入ったという方が正しいかもしれない。


 バラッ。


 ヒビが入ったその部分は欠片となって、バラバラとこぼれ落ちて来た。


(はっ)


 それを見てマヤは何かに気付く。


(明らかに、この世界は壊れかけている。でも、何故?)


 その疑問は次のゾンビ達の言葉によって解消される。


 〈フッ。惜しかったな。この世界から出る為の言葉パスワードは、()()()()()ではなく、別の言葉なのさ!〉

(パスワード? 『自分の世界』じゃない?)


 ここでようやくマヤは、自分がこの世界から抜け出す為の言葉パスワードがある事を知った。


「そのパスワードを言う事が出来れば、私はこの世界から出る事が出来るのね?」


 マヤはゾンビ達に質問をぶつけてみた。

 それが本当かどうか確かめる為だ。

 ただ、素直に教えてくれるかどうかは疑問だが。


 〈ああ、そうだ〉


 あら、親切に答えてくれた。


 〈だが、分かるかな、そのパスワードが。我々がお前を捕まえる前に〉

「逃げてみせるわ!」


 どうしよう。

 とにかく考えなきゃ。

 それしかこの世界を出る方法はない。

 息が切れて来た。

 額から汗が流れる。

 後ろのゾンビ達は確実に、一歩一歩迫って来る。


(確かに近かったんだ……。私があの時叫んだ言葉が。でも何だろう。()()()()()じゃないとすると……)


 はっ。

 閃いた。

 今、この一瞬に。


(そうだ。この人達、私の精神をDEXが支配すると言っていたわ。だとすると、今ここに居る私は、私の身体から離れた魂なのかもしれない。という事は……。そうだ。もしかすると)

 〈ん?〉


 マヤが急に立ち止まった。

 つられてゾンビ達の動きも止まる。


「分かったわ! この世界から出る言葉パスワードが!」

 〈な、何だと?〉


 ざわめきが起こる。

 が、マヤは構ってはいられなかった。


「言うわよ。そのパスワードは……。私、()()()()()()()()!!」

 〈そ、その言葉は~っ!〉


 途端ーー、

 世界はガラガラと音を立てて崩れて行った。

 無数の欠片は光の粒となり、彼方へと飛んだ。

 そして、マヤの意識もまた、静かに消えた。









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