狙われし二人その2
男性はジリジリと迫って来ていた。
圭一と中島は窓際まで追い詰められている。
声さえ出ない。
冷や汗が流れ落ちて来る。
気付くと鳥肌まで立っていた。
「あなた方にとっては、予想も出来ない事でしょう。しかし自分にとってこれは、心に決めていた事なんです。いつかあなた方に会ったら、計画を実行しようと。そして今日、そのチャンスが来たんです」
「……っ」
「分かります。分かりますよ。恐怖で震えているのが。わざわざこの惑星まで来て頂いた事が、あなた方にとっての不幸でしたね。だって今日この瞬間、あなた方はこの自分に倒されるんですから!」
男性は両手を広げ自信ありげに笑う。
圭一達は何が何だか分からないまま、怯えた目で男性を見ている。
何故こんな目に合わなきゃいけないんだろう。
この人に何かしたのだろうか。
車を運転して助けに来てくれた時だって、穏やかで別段怒っている様な感じはしなかったのに。
「さあ、そろそろ行きましょうか。せっかく選ばれし者として来て頂いたのに、残念です」
男性は圭一に向かいナイフを振り下ろそうとする。
その時、
「待て!」
外から鍵が開けられ、メドゥーとクローンが部屋の中に入って来た。
メドゥーが男性の腕を掴み圭一を助ける。
クローンは両手を広げ圭一と中島の前に踊り出た。
「メドゥーさん……。クローン……」
「二人とも、怪我は無いかい?」
「は、はい。ありがとうございます」
「良カッタデス」
安心した笑顔を圭一達に見せて、クローンが男性に詰め寄る。
「マグサン。何故、コンナ事ヲシタノデスカ?」
男性は唇を噛み、悔しそうな表情を見せた。
「マグ……」
メドゥーもそっと問いかけた。
男性が言う。
「……兄さん。手、放してくれない?」
「放してもいいが、お前もナイフを渡せ」
「それは……」
男性は拒否する意向だ。
メドゥーは悲しそうに首を振った。
「マグ……。圭一君達を恨んでも、何にもならない」
「で、でも……」
ここでようやく圭一の声が出た。
「あの……、メドゥーさん、クローン。その人は、一体……?」
「ああ。こいつは、俺の一つ下の弟さ」
「おとう、と?」
「そう。マグ・ライバー。弟が迷惑かけて済まなかったね。二人とも」
「い、いえ」
「メドゥーサントマグサンハ、戦争デゴ両親ヲ失ッタ後、コノ基地ノ事ヲ聞イテ来ラレテ、レジスタンスニ参加サレタノデス」
「そう」
マグ、男性がナイフを握っている腕を力無く下ろした。
メドゥーは弟の腕から手を放し、そのナイフをそっと取り上げる。
マグがサングラスを外した。
メドゥーと兄弟だけあり、顔つきが似ている。
が、その右目には、消えない傷跡があった。
眉毛からまぶた、目の下まで切られた傷がついている。
刀傷っぽい。
目は閉じられていた。
「四年前、国家がある兵器を造りましてね。その威力を確かめる為に、自分達の町が狙われたんですよ。これは、その時に受けた傷です」
「その兵器って、まさか……」
「そうですよ、DEXです。奴の〈お試し〉の為に、自分と兄さんは町も両親も失いました。行き場を失くした自分達は噂に聞いていたレジスタンスを探して、ここにたどり着いたという訳です」
「そんな……」
「フッ。この傷はDEXと一緒に攻めて来たロボットに切られた物です。右目は見えなくなってこんな風貌になってしまったけど、マヤちゃんは怖がらずに接してくれました。自分の、一目惚れでした」
「……」
「そんなマヤちゃんが敵に捕まってしまいました。あなた方と地球で出会い、愛を知ったせいで。自分は、選ばれし者なんて認めない! マヤちゃんが連れて行かれたのは、あなた方のせいだ!」
「マグサン! ダカラ圭一サン達ヲ襲ウトイウノデスカ!?」
「そうだよクローン。この二人さえ居なければ……」
「マグ!」
メドゥーがマグの頬を平手打ちした。
興奮していたマグはほっぺたを押さえる。
兄の顔を見た。
「兄さん……」
「マグ。それは逆恨みに過ぎない。圭一君達を恨むのは見当違いだ」
「けど兄さん、地球から帰って来てからマヤちゃんが捕まったのは事実だ!」
「事実だとしても、彼女が持って来てくれた力で、この惑星は再生した」
「……くっ」
「お前がマヤを思う気持ちは分かる。けどそれで、圭一君達を恨むべきじゃない」
「ちっくしょう!」
マグの握った拳が、圭一の顔面に近づく。
クローンが咄嗟に拳を止めた。
メドゥーがマグの背中に回り、手刀で首の後ろを叩く。
「う……」
マグは気絶した。
倒れかけた弟をメドゥーが支える。
「メドゥーさん……」
「圭一君、中島君。弟が迷惑をかけて済まない。部屋に案内した時、戻って来るのが遅いので様子を見に来たんだ。フッ、両親が死んだ後にね、強い兵士になりたいと言い出して、言葉使いも変わった。もともと体が弱かったんだけど、〈敵〉への怒りからかな、こいつなりに努力してきた。マヤがレジスタンスのメンバーとして活躍していたおかげでもあると思う」
「……マヤちゃんに、惚れていたから?」
「そうだね。マヤの励ましがあったからこそ、車の運転だって人一倍上手になった。が、その思いが今日は暴走したみたいだ」
「暴走だなんて……。マヤが好きなのは僕だって同じです。マグさんと同じ立場だったら、多分僕だって……」
「ありがとう圭一君。だが、その為に君達に傷を負わせようとしたのは正しい事とはいえない。その責任は取らなくては。クローン、後を頼む」
「……ハイ」
「ちょっと、メドゥーさん!」
メドゥーはマグを背負って、部屋から出て行った。




