彼女が語った事
「ま、マヤ……」
突然現れたマヤに驚く圭一と中島。
マヤは悲しそうな顔をして呟く。
「圭一。昨夜私がした事見てたよね。カプセルを投げたから大丈夫って言ったじゃない。信じてないの?」
「み、見てたよ。君はちゃんとカプセルを投げて、急成長する土だって教えてくれた。信じない訳じゃない。でも……」
「実際に土が完全に穴を埋めるまで、確認しようと思った? だよね」
圭一の言い訳じみた説明を聞いたマヤは、いたずらっ子の様に微笑んだ。
「そうよね。初めて会ったばかりの人の事を、そう簡単に信じられる訳ないよね」
「ま、マヤ、だから、それは……」
「分かってる。圭一が私の事、少しだけでも理解しようと思ってくれた事が嬉しい。だから許してあげる」
ホッとしたのも束の間、彼女の視線が気になった。
中島の方を見ている。
その中島はマヤの美少女ぶりに、頬を赤く染めていた。
「か、か、可愛い……」
マヤはニッコリ。
「ありがとう。ところで圭一、この人は?」
圭一に向き直る。
圭一は彼を紹介した。
「クラスメートで僕の友達の中島だよ。君の事は話してある。安心して。悪い人間じゃないから」
「は、はい! 中島高志です! 圭一から今日、あなたの事を聞きました。俺、宇宙とかUFOとかそういうのが好きで、圭一からあなたの話を聞いた時、びっくりしたけど、会ってみたいと思いました。正直、圭一が羨ましいです。こんな美少女と会っていたなんて」
「まあ、美少女だなんて。でも嬉しい。私を怖がらない人がまだ居たのね。あなた達なら、話を聞いてもらえそうだわ」
「はい、是非! 相談なら俺達が聞きます」
「落ち着いて中島。そんな緊張しなくていいから」
「フフッ、そうね。あなたも圭一も、私と同じ年頃みたいだし、仲良くしましょう」
「マヤちゃんがそう言うなら、友達になろう」
調子がいい。
というか中島、積極的。
マヤの両手を掴んでいる。
「さあ、マヤちゃん、話して」
「え、ええ」
「中島~!」
圭一は中島の腕を掴むと、マヤから中島の距離を離した。
「悪い。でもあんまりマヤの手を掴んでると、彼女が話しづらいと思って」
「う~」
中島は口をしぼめる。
が、すぐに理解した様に言った。
「分かったよ。確かに俺があんまり近づいたら、マヤちゃんも話しづらいからな」
「中島……」
「それじゃ、いいかしら」
マヤは息を吸って呼吸を落ち着ける。
やはり少し緊張していたのか。
「私達の星は、ここより遥か遠くにある惑星、イリアよ。その星は、ここ地球と良く似ている。けど、文明はずっと進んでいる。科学の力で、私達の星は飛躍的な成長を遂げたわ。科学者達は、新しい物体を次々と開発して行った。昨夜圭一に見せたのは、その一部よ」
「へえ」
「イリアは巨大な国家組織によってまとめられていたの。私達はみな、ロボットと生活を共にしていた。ロボット達は自立型A.I.を持っていたから、最初こそ人がプログラミングするけど、徐々に自分で知識を得て友達になっていったの。楽しかったな。一緒に家事をしたり、遊んだり、大人達と仕事をしたり」
「へ、へえ~」
マヤは楽しそうに語る。
圭一と中島は相づちを打つだけだった。
ロボットと共存している世界。
ちょっと未来の話だと思っていた。
別の星では、もう実現していたんだな。
「マヤちゃん、ちょっと質問」
「何? 中島君」
「マヤちゃんの星では、車はあるの?」
「車? そうね。自動操縦になってるわ。乗った時に行き先を入力するだけで、後は車が判断して走ってくれる。空ルートもあるのよ」
「そ、それは、空飛ぶ車って事?」
「う~んそうねえ。山とか越えて近道したい時にね。ボタンを押すと、車に羽が生えて飛ぶ事が出来るのよ。急いでる人とか、よくこうやって他の車を越してるわね」
「す、凄いや。想像していた以上だ!」
「フフッ。他に何か質問はある?」
「じゃ、次は僕が」
圭一が手を上げた。
「えっと、素朴な質問でごめん。君は僕の家での食事の時、箸を使って上手に食べていたけど、君の星にも箸が?」
「ええ、あるわ。地球と良く似た星だからかしら。昔からなので、私にもよく理由が分かっていないの。でもね、ここに来る前、少しは地球の事も勉強したのよ」
「ああ、だから地球の言葉で話せるんだ」
「ええ。だけどオレンジという果物は初めて知ったわ。あなたのお母さんが作ってくれるっていうクッキーも、どんな物だか想像出来ないけれど、これでまた勉強になるわ。ありがとう」
「どう致しまして」
「でも、案外イリアにも似た様な物があったりして」
「そうだよマヤちゃん。んで」
「……?」
「君がここに来た理由は?」
その質問を中島がした途端、マヤは黙ってしまった。
困った様な、どこか泣き出しそうな顔をして。
何か聞いてはいけない事を質問してしまっただろうか。
中島と圭一は戸惑う。
「マヤ……」
「マヤちゃん、あの、ごめ……」
「プッ」
マヤが吹き出す。
「冗談よ。こっちこそごめん。私がこの星に来た理由? それはね、まだ秘密」
「ええ~」
「期待させちゃったかな。でも、もう少しこの星の人達と仲良くなってから。それまで暫く、この星に居るから」
「えっ、マヤちゃんまだ居てくれるの?」
「もちろんよ。だから暫くよろしくね。中島君、圭一」
「も、もちろんこちらこそ!」
中島は腕を突きを上げて喜んだ。
それにしても、
(何か、ちょっと不思議な子……)
と、圭一はマヤの魅力に魅了されていた。