その星、惑星イリア
大地の感触を一歩一歩、足で踏みしめる。
この星から少女が地球に向かい舞い降りて来た。
そして三年後、まさか今度は自分がこの星に降り立つ事になるとは。
地球と似てる。
マヤも言っていた。
惑星イリアは地球と似た環境を持つ星だって。
圭一はある事に気づく。
この星、ボンベを使わなくても息が出来る。
酸素があるのか。
ここは地球から離れた惑星のはず。
何光年離れているかは分からないが。
一瞬と言えばオーバーだけど、気を失っている間に連れて来られたって感じだから。
光の球に包まれて。
中島が騒いでいたのは覚えている。
それから、何処をどうやって飛んで来たのか、本当に大気圏を超えて宇宙に出たのか、不思議なほど記憶に無い。
せめて宇宙に漂う丸い地球の姿を、一目この目で見たかったな。
まさかクローンが?
ロケットらしき物に乗っていないから、考えられる説としたらこれしかない。
それとも、あの光の球がロケット?
う~ん、分からない。
とにかく普通に歩ける。
宇宙服を着用しなくても息苦しくもない。
こんなに地球と似てるんだ。
いや、違う部分もある。
空に向かってそびえ立ち、交差している二本のレール。
惑星イリアの電車に似た乗り物、空気を利用して走るエアータのレールか。
確かに車輪の為の溝が無い。
代わりに十センチ間隔で小さな穴がたくさん空いている。
ここから空気が出るのだろうか。
が実際にはこのレールにエアータは走っていない。
レールが途中で崩れ落ちてしまっているからだ。
これも戦争の影響なのか。
レールの下をくぐり、先を急ぐ。
ゴツゴツした岩肌が続く荒野を抜けると、澄んだ細い川が流れる道に出た。
「うわあ」
魚が泳いでいる。
その透明度は、入れてみた指の一本一本がはっきり見えるほど綺麗な色だった。
温度も気持ちいい。
極端に冷たい、という訳ではなく、ひんやり心地良さを感じる程度。
そうだ。
ここの景色は、全てが温かい。
空も。
雲も。
太陽も。
鳥も。
空気も。
全てが、光に包まれている。
自然の、暖かさ。
そして、優しさ。
彼女がこの星に連れて来た物。
地球の匂いに似てる。
何とも言えない穏やかな時間が、そこにはあった。
「圭一、サン」
「……え?」
「温カイデスカ?」
突然のクローンの声に我に返る圭一。
川から手を出す。
「ごめんね。レジスタンスの人達に会いに行く途中でこんな事……」
「イイエ。イイノデスヨ」
クローンが虚ろな目をして、立ち止まる。
その表情からは、少し寂しげな様子が伺えた。
「昔、イツカラカ人々ハ、科学トイウ道具ヲ手二入レ、戦争トイウ凶器デ街ヲ破壊シ、美シイ自然サエモ滅ボシマシタ。ソンナ哀シイ惑星ヲ救ウ為二送ラレタ星デ、マヤサンガ見ツケタ〈愛〉、ソレガ、アナタナノデス」
「……ぼ、僕はそんな大した事してないよ」
「イイエ。アナタハマヤサン二、コウ言イマシタネ。『僕達は、みんな、自然と共存してる』ト。ハットサセラレマシタ。愛ヲ求メテイタノ二、私達ガ、忘レテイタノデスカラ。戦争ハ、人ノ命ヲ奪イ、自然ヲ奪イ、私達ノ心カラモ、大切ナ何カヲ奪ッテイマシタ。イツシカ私達モ、〈敵〉ト同ジ様ナ憎シミ二囚ワレテイタノデショウ。ソレヲ救ッテクレタノハ、アナタデス。アリガトウゴザイマシタ」
「マヤの、クローン……。って呼んでいいのかな」
「構イマセンヨ。クローンデ。私、生マレテカラ三年シカ経ッテイマセンガ、少シノ間デモ、コンナ素晴ラシイ自然二会エテ良カッタト思ッテイマス。モシ、モシ本当二人間ガ自然ト共存シテ、ソレガ遥カ先ノ未来マデ続クトシタラ、コンナ二嬉シイ事ハアリマセン。タトエ文明ガドンナ二進モウガ、人間ノ悪ノ心ガ自然ヲ破壊シヨウガ、何度デモヤリ直セル。ソウ、信ジタイノデス」
クローンはそう言って笑った。
晴れ晴れしい笑顔。
まっすぐ前を向いている。
「そうだね」
圭一も同意した。
そう。
人は立ち上がる事が出来る。
ちょっとづずつでも、すぐには無理でも、絶望の中から少しずつ這い上がればいい。
諦めなければ。
マヤもそうした。
イリアの自然を見れば分かる。
頑張ったね。
「長話二ナッテシマイマシタネ。デハ、行キマショウカ」
「うん」
二人は川の側を走り抜けた。




