飛ばされた先
「母さん!」
「圭一、これよ」
走って帰って来た圭一に、母親がペンダントを渡す。
ペンダントは赤い光を放っていた。
「何だか、不気味な光ね。怖いわ」
「これが、僕の部屋で?」
「ええ。よっぽどの緊急事態なのかもしれないわ。連絡、つかないかしら?」
「やってみる。えっと、マヤ。マヤ!」
ペンダントに向かって話しかける。
返事は聞こえない。
中島も駆けて来た。
「これか? 光ってるペンダントって。うわ、赤い光だな」
「そうなんだ。でも、話しかけてもマヤからの反応が無くて……」
「なんか事情があって、返事が出来ない状態なのかもしれないな。圭一、もう一度やってみな」
「うん。マヤ、マヤ。返事して!」
やはり無反応。
圭一も母親も中島もどうしていいか分からず、ペンダントを前に考え込むだけ。
その時、
――すうっ。
一本の流れ星が西の空を駆けた気がした。
眩しい光に包まれる。
「な、何だ? この光」
「わたし達を包んでいるわ」
「眩しい……。母さん、中島、大丈夫?」
ゴゴゴゴゴゴ。
キュイン。キュイン。
何かが急接近する音がするが、眩しさで良く分からない。
フワッ。
光の中に人影が立った。
「女、の子……?」
髪の長い少女のシルエット。
手を圭一の方に伸ばして来る。
「オイデ。選バレシ者ヨ。今スグ、ココ二」
「えっ?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」
母親が圭一の前に出て庇う。
「あなた誰? 何でこの子を連れて行こうとするの?」
「私ハ、惑星イリアカラ、迎エ二……」
惑星イリア?
じゃあやっぱり、マヤに何かあったんだ。
「惑星イリアって言ったね。マヤは、マヤは無事なの!?」
「彼女、ハ……」
シルエットの人物は黙る。
母親は息子をさらわれまいと伸ばしていた腕を下ろし、圭一の横に移動する。
「よほど事態が深刻なのね。圭一の助けが必要なほど。分かったわ。息子を連れて行きなさい。その代わり、大事な息子なの。なるべく危険な事はさせないで」
「……分カリマシタ。大事ナ息子サンノ命、オ預カリシマス」
「母さん……」
「行ってらっしゃい圭一。あなたの大事な子を、しっかり守って来るのよ」
「うん、母さん」
「学校には何とか言っておく。自慢の息子を待ってるわ。それと、持って行きなさい、これ」
「分かった。母さん、行って来る」
ペンダントを受け取った圭一が、シルエットの人物に向かって頷いた。
「デハ、改メテ。選バレシ者ヨ。ココへ」
瞬間、圭一と中島を乗せた光の球が、遥か遠い宇宙に向かい上昇し始めた。
「あらあら、中島君もなの?」
圭一の母親が呟くが、光の球はあっという間のスピードで駆け上り、もう視界から見えなくなっていた。
後には、何も残らない。
何事もなかったかの様に、街は静まり返った。
「ワオオオオオン」
犬の遠吠えだけが響く。
(頑張ってね。圭一、中島君)
星が、また強く光った。
ビュウウウウウ。
サワサワサワ。
風が彼の体を吹きつける。
緑の、大地。
何処かで、川の流れる音がする。
どうやら、気絶していた様だ。
圭一は、目を開け立ち上がった。
周りを見回す。
ゴウゴウと風の吹きつける荒野。
ゴツゴツした岩肌が痛々しい崖の上からは、青い空と雲の流れと太陽が見えた。
「ここは……」
地球じゃない。
そう感じた。
この世界にしかない、独特の、ありのままの姿と匂い。
不思議な感情が渦巻いていた。
幻の中に居る?
いや、これはしっかりとした現実。
夢うつつの中じゃない。
頬に触れた風の感触。
手に触った岩の感触。
本物だ。
本当に惑星イリアに連れて来られたのか。
といって特に何もする事も無い。
誰も居ないし。
どうすればいいのか。
ギイイイイイン。
カッ。
カッ。
カッ。
誰かが、こっちへ向かって歩いて来る。
高い、金属音が響く靴の音。
雲の隙間からこぼれる光に、影が重なる。
圭一は振り向いた。
相手の唇が動く。
「ヨウコソ、選バレシ者ヨ」
圭一は、その人物の顔を見て驚きと同時に笑顔を浮かべた。
「君は……、マヤ!」
が、相手はあっさり首を振って否定した。
「私ハ、アナタノ愛スル人、地球へ送ラレタ使者ノマヤサンデハアリマセン。私ハ、彼女ノクローン。ツマリ、人造人間デス」
「じ、人造人間!?」
圭一は言葉を失う。
つまりこの惑星で造られた、マヤのクローン。ロボットって事か。
「ハイ。私ハ、アナタトオ友達ヲ地球カラココ惑星イリアへト運ビ、アナタガ目覚メルノヲ待ッテイマシタ。アナタ二ハ、コノ惑星ノ危機ヲ救ッテ頂キタイノデス」
「イリアの危機? 見た所、危機が迫っている様には感じないけど」
「ソレハ三年前二、マヤサンガ地球カラ愛ヲ持ッテ来テクレテ、コノ惑星ノ自然ヲ復活サセテクレタカラデス。ケレド、ソノ愛ノ力ガ、徐々二薄マッテイル事ガ分カッタノデス。原因ハ、〈奴〉ガ生キテイタカラデシタ」
「〈奴〉? 〈奴〉って?」
「詳シクハ、レジスタンスノアジトデ」
「分かったよ。行こう。そこに中島も居るんだね」
「ハイ。サスガ選バレシ者、圭一サンデス」
クローンは圭一を案内する様に進む。
これからどんな事が待っているか分からない。
だが圭一は、マヤの故郷の星にたどり着いた事に、少しばかりワクワク感を感じていた。
(マヤ、来たよ)
これからこの惑星の事を少しずつ知って行こう。
圭一はクローンの後に続き歩き出した。




