帰還
夕食の料理がどんどん減って行く。
マヤも圭一も、みんながお腹空いていたみたい。
あんな本来なら見たくもないものを目撃してしまったのなら、食欲が落ちても仕方ない事だが、本当感心するほどいい食べっぷりだ。
みんな意外と肝が座っているんだな。
そうじゃなければ宇宙人のマヤを受け入れる度量も無かったかもしれない。
食事をしながら聞いた事だが、圭一の家族も、中島君の家族も、まだマヤに惑星イリアに戻って欲しくないらしい。
もちろんマヤの気持ちが大事だという事も承知している。
が、出来ればもう少しといった所だろう。
マヤは嬉しかった。
ここまで受け入れてくれる人達に出会えた事が。
だが、彼女にも事情がある。
地球での目的を果たした以上、帰るという事は待っていてくれる仲間達との筋を通すという事だ。
それに彼女が地球に留まる事により、危険を呼び込む事もある。
実際に敵のロボットが攻めて来てしまった。
いくら圭一達が許してくれると言っても、マヤ自身がそれを負い目に感じている部分もある。
両親が居なくなった事で、自分を厳しく律する事が増えていた様だ。
戦いの中に身を投じていた結果でもあるだろう。
他人に甘えるという事が下手になっていた。
だけど地球に降りて、色々楽しい事を経験するうち、忘れていた感情が戻って来た。
ー本気で笑うという事ー
だから、大好きな圭一達をこれ以上傷つけたくない。
マヤは告げた。
惑星イリアに帰るという事。
みんなの箸が止まった。
「本当なの? マヤちゃん」
「はい。圭一のおばさま」
「そう。やっぱりね」
圭一の母親は箸を置く。
「わたし達の中ではね、そろそろあなたからその言葉を聞く日が来るんじゃないかと予測していたの。そう。ついにこの日が来たのね」
「おばさま……」
「迷わないでね。あなたにもう少しだけ地球に留まって欲しいというのは、わたし達の期待でしかないわ。待っている方々が居る以上、あなたは帰らなくてはいけないわ。そうあなたが決めたのなら」
「そうだよ」
中島が笑う。
気付くとみんながマヤの方を見ていた。
「だから母さんの作ったこの料理、この瞬間を楽しんで行って。最後の、思い出として」
「中島君……」
「ありがとう。俺、君に会えて嬉しかった」
「こちらこそ。あの、私……」
「泣かないで。ほら、食べて。冷めるよ」
「……うん」
みんなの視線が、優しさが、嬉しかった。
帰りたくない。
でも、行かなきゃ。
二つの思いがせめぎ合う。
だけど、やっぱり帰ろう。
惑星イリアに。
博士達の元に戻ろう。
戻って、いっぱい報告するんだ。
圭一達の事、中島君の事、地球の美味しい物。
初めてのデート、ひまわり畑、海に行った事。
いっぱい、いっぱい。
楽しい時は過ぎて行く。
食事が終わり、やがて外。
中島の母親と食器を片付け玄関を出る時、見送るのは本当にお別れを言うようで辛いからと、圭一だけが公園まで付き添う事になった。
今夜マヤはロケットに乗って、宇宙に帰る。
月の光が二人を照らしていた。
「お別れだね、マヤ」
森の中に着いた瞬間、圭一が言った。
「圭一……」
「さよならは言わない。またいつか、きっと会える日が来るよ。僕は、そう信じてる」
「……そうね。また、いつか会いましょう」
「うん。今より大人になってるはずの君の姿、僕、楽しみにしてる」
「圭一の姿もね」
「フッ」
圭一とマヤは見つめあった。
自然と近づく。
「ただ、これだけは言わせて。ずっと言いたかった事。僕、君が好きだ」
「圭一……」
「離れても……、僕……、君を思ってるよ」
「……うん!」
目を閉じ、ゆっくりと唇と唇を重ねる。
優しく、温かなキス。
やがて静かに離れる。
「ありがとう圭一。あなた達から教えてもらった地球の愛。惑星イリアで、きっと役立ててみせるから」
「うん。僕も早くイリアの争いが終わる事、願っているよ」
「ありがとう。私……。あなたの事、きっと忘れないから!」
「僕もだよ。君に会えた事、感謝してる」
「じゃ、そろそろ」
名残惜しいけど。
マヤは模型の様なロケットを地面にポンと投げた。
みるみる大きくなる。
青い光、というか電気が走っているよう。
「これが……」
「そう。私がイリアから乗って来たロケット。稲妻が走るように、ビュンッて飛ぶわ」
「青い、稲妻か。でもこれ、感電とかしないの?」
「電気を放ってるから、しそうに思うけどね、不思議と感電はしないのよ。だいたいそんな風になったら、私、地球に来れないわ」
「そ、そうだよね。君の星の科学者は凄いんだね」
「ええ。博士達は私の自慢だわ。それじゃ、圭一。私、行くね」
「うん」
マヤは乗り込む。
圭一は近くに居ると危ないので、少し後ろに下がる。
ロケットのエンジンが起動した。
電流が強くなる。
星空の闇に光って、とても綺麗だ。
「お別れだね、マヤ」
「そうね」
「また、いつか、この場所で」
「うん」
コクピットの窓から外を見た。
圭一が手を振っている。
ためらいはあったものの、思い切ってマヤは上昇のスイッチを押した。
ロケットが空へ帰って行く。
地上から天に昇る青い稲妻。
珍しい、というより目に焼き付けておきたい貴重な光景だろう。
もう圭一の手には届かない。
ロケットが消えた場所で座り込む。
目の前の景色は暗い闇。
でも、ついさっきまで、彼女は、マヤはここに居た。
その笑顔も、そのぬくもりも、圭一の心の中に残っている。
「マヤ」
彼女が去った星空を眺めた。
そして大きく息を吸い、吐く。
家路へ。
遥かな銀河に、思いを寄せて。




