また逢える日まで
それから、子供達は変わって行った。
この学校のアジトでの悲劇を胸に、敵との争いにも積極的に意見して、徐々に〈戦士〉へと姿を変えて行った。
本音を言えば戦士になんてなりたくなかった。
ただ静かに、時を過ごしていたかった。
しかし、これをきっかけに敵の攻撃は激しさを増して来る。
正に渦を巻くみたいに。
博士達は仲間を連れて、敵の目の届かない場所へと逃げまくった。
体制を整える為に。
博士だってマヤ達少年少女には、戦士なんかになって欲しくなかっただろう。
が、敵の勢いがそれを許さない。
生きる為には、戦う事も必須。
強くならないと殺されてしまう。
逃げているうちに、共感した仲間も増えて来た。
博士は敵の情報を把握する為、数ヶ所に支部を配置した。
敵の方も自分達に反対する者の家を、いちいち潰すなんて面倒くさいやり方はもうしない。
それより逃げ回っている博士達を始末した方が早いから。
そうはいかない。
隠れ蓑を探す。
敵が仲間の家を焼かないのならちょうどいい。
なら密かにレジスタンスの仲間になった人の家を支部にすればいい。
そうしていくつもの支部が出来た。
博士達はネットワークを各支部に繋ぎ、情報を共有出来る様にした。
もちろん、敵に支部だとばれ、狙われてしまった時の対策もしてある。
アジトの時の様な失敗はしたくない。
だからみんなで良く話し合い、方法を考えた。
各支部の地下に通路を掘り、いざという時にその通路を通って脱出出来る様にした。
通路への入り口はそれぞれの家に任せている。
リビングの床だったり寝室だったり、はたまたエレベーターの秘密のボタンを押して降りて行くパターンだったり。
あえて同じにしない事で、支部だと知られにくい構造になっている。
出口も外に繋がっているのは同じだが、それぞれ場所が違う。
林の木の根元だったり、駅舎の脇だったり、とにかく目立ちにくい場所。
もちろん住んで居る人もその家の人達。
では本部は?
って言いたい所だが、その時点では本部らしい本部は造られていなかった。
敵から身を隠す、という意味では、その方が良かったのかもしれない。
たまには支部に泊まらせてもらいながら。
慎重に。
という訳でまだ幼かったマヤ達は、博士と一緒に各地を転々としながら、強くなる術を探し続けていた。
そして現在、地球。
中島君の家から、地球でのマヤの家がある公園にたどり着く。
通りすがりの人に泣き顔を見られただろうが、今のマヤには気にしている余裕など無かった。
ブランコで遊んでいる小さな兄弟が居る。
砂場でお父さんと一緒にお城を製作している女の子も居る。
子供達の笑い声を聞いているうちに、ようやく涙が治まって来た。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
五才くらいの男の子に話しかけられた。
「泣いてるの?」
「ううん。何でもないの。大丈夫よ」
マヤは微笑む。
「ふ~ん。ボクね、ママ待ってるの」
「そうなの? ママは何処に?」
「ジュース、買ってる」
直後、その子の母親が戻って来て、男の子とは手を振ってバイバイした。
(さて……)
惑星イリアに帰ろう。
これ以上、圭一達に迷惑はかけられない。
こんなに仲良くしてもらっただけでも奇跡だ。
奥の森に向かう。
思い出すな。
ここは最初、圭一と初めて出会った場所。
地球に来たばかりで何も知らない私を、優しく受け止めてくれた。
あれから彼の両親に会い、中島君と出会い、海にも連れて行ってもらった。
色々あったな。
思い出すと、また涙がこぼれてきそうになる。
マヤはドーム型の家を建てていた場所に腰を落とし、そっと地面を触った。
その時、
「マヤ」
後ろから声が聞こえた気がした。
この声は……。
聞き間違いだろう。
自分は今、彼らと離れたばかりなんだ。
マヤは聞こえないふりをして前を向いていた。
「マヤ」
「マヤちゃん」
一人じゃない、数人。
聞き覚えがある。
まさか、そんな……。
マヤは堪らす振り向いた。
圭一は笑う。
「良かった。あの後少し中島や父さん達と話しあって、慌てて君の後を追って来たんだ」
「え?」
彼の両親と中島が姿を見せる。
「マヤちゃん、まだ居てくれたんだね。このままマヤちゃんがイリアに帰ってしまったら、俺、謝れないままになっちゃう。居てくれて良かった~。焦ったよ~」
「中島君……」
彼らは息を切らせていた。
急いで、走って来てくれたのだと分かる。
「俺の父さん達も、悪気があってあんな事言ったんじゃなかったんだ。俺もすぐ君の後を追おうとしたんだけど止められて、ケンカ腰になってさ。そしたら、逆に何て言われたと思う? 俺の本気が見たかったってさ」
「本、気?」
「うん。本気。何だよそれって、更に強くぶつかったら、たしなめられたというか、言いくるめられたというか。とにかく、父さん達は、俺の君への本気度を確かめたかったらしいんだ」
「本気度……」
「そう。あ、勘違いしないでね。君と圭一との仲を裂こうとしてる訳じゃないから。そうじゃなくて、地球の友人として、俺がどれだけ君を助けたいって思ってるか、それを知りたかったって」
「その通りだよマヤちゃん」
「おじさま……」
中島の両親もそこに姿を現した。
「済まなかったね。高志も圭一君も、飛び出して行った君の後をすぐ追いかけようとしていたんだけど、わたし達が止めたんだ。高志達がどれだけ君の事を大切に思っているか見極めたかったからね」
「ええ。圭一君のご両親から、あなたが宇宙人だと聞いた時はどんなにびっくりした事か。けれど、子供達から話を聞いて見方が変わったわ。高志は、あなたを本当に大切な友人の一人だと思っている。わたし達に突っ掛かった時もそう。宇宙人とか地球人とか関係ない。同じ銀河に住んで居る人間だって。それを聞いた時、目が覚めた気がしたわ。同時に、変に偏見を持っていない息子を、逞しく感じたわ」
「おばさま……」
「ごめんなさいね。未知のものに接すると、わたし達は少なからず恐怖を感じるものなの」
「当然の感情だと思います。私もそうですから」
「そう? ありがとう。それで、さっきのお詫びと、高志を助けてくれたお礼を込めて、夕食をご馳走したいの。来て頂ける?」
「え? えっと」
「マヤ。僕達も呼ばれたんだ。それに僕は、まだ君と一緒に居たい」
「圭一……。そうね、せっかくのご招待だもの。おばさま、行かせて頂きます」
「そう? 嬉しいわ。じゃあ待ってるわね」
中島の母親は準備の為、旦那さんと一緒に帰って行った。
「じゃ、マヤちゃん、俺も行くわ」
「ええ。中島君もありがとね」
「こっちこそ。それに、あのままお別れなんてなったら、俺、君に礼を言えないままだし。そんなの嫌だから」
「フフッ、そうね」
「だから夜は楽しんでいって。じゃあね」
中島も去って行った。
後は圭一と、彼の両親。
彼の両親は、ドーム型の家が見たいと言う。
そうか、まだ招待した事無かったっけ。
マヤは家を準備した。




