涙のありがとうその2
ピピッ、ピピッ。
いきなりのリングからの通信に、膝を抱えて突っ伏していたマヤはびっくりして顔を上げ、慌ててモニターを立ち上げた。
連絡はちゃんと来るんじゃないか? という期待は少しはあったけど、時間がかかっていた様なので、半ば来ないものと諦めていた。
それが突然の通信。
マヤは嬉しさを隠せない。
回りの友達も集まって来た。
「はい。お母さん」
「マヤ。心配かけたわね。ごめんね」
「うん。遅いよ!」
せっかく助かった母親の姿を見たのに、マヤは怒りと嬉しさで複雑な表情を見せ、また涙を流してしまう。
「ごめんね。お父さんのおかげで、わたしはロープから抜けたわ。爆弾も博士達が一旦解除して下さったんだけど……」
「え?」
そこで同じくモニターを覗き込んでいたお兄さんが指摘する。
「ちょっと待って下さい。そこ、まだ研究室じゃないですか!」
「……え?」
マヤも気付く。
爆弾解除が成功したのなら、研究室から離れた場所に移動しててもいいはずだ。
「そう。良く聞きなさいマヤ。お母さん達、もう戻れないの。爆弾解除は確かに成功したけれど、〈敵〉が一旦止まったはずのタイマーを遠隔操作して動かしたのよ。鍵もかけられて、わたし達、閉じ込められてしまったわ」
「そ、そんな……」
「せめて最後に短い間でも、こうしてあなたと話が出来て、わたし達幸せよ。ね、あなた」
「ああ」
父親とおじさん二人もモニターの前に。
「マヤ。強く生きるんだ。それが、父さん達の願いだ」
「わたし達、あなたの親で幸せだったわ。ありがとう。わたし達の下に生まれて来てくれて」
「だ、駄目! お父さん、お母さん!!」
「幸せに、ね」
母親がにっこり微笑んだ瞬間、
ドガガアアン。
激しい爆発音と光。
そして炎。
モニターは見えなくなった。
「そ、そんな……っ!」
外で待っていた全員に衝撃が走る。
マヤは嗚咽と共に崩れ落ちた。
「い、嫌だ! お父さん、お母さん! うっ、ううっ。ああああああっ!」
子供達や女性達の中からも、すすり泣く声が聞こえる。
お兄さんも目頭を押さえていたが、ふとアジトの方を見る。
「お~い」
遠くから、博士の声が聞こえた気がした。
アジトの死角の方から人影。
幻じゃない。
博士達は生きていた。
「博士!」
アンドロイド二体に連れられて来た、博士と若者と抱き合う。
マヤは博士達を見るものの、まだきょとんとしていた。
博士はマヤの前に座る。
「マヤ。お父さんとお母さんの事は残念だった。命が助かったわたしには、言葉が無い」
「……」
「閉じ込められたわたし達を、二体が助けに来てくれた。一度機能が停止した事で、敵からの操作が出来なくなったそうだ。わたし達はラボの天井から上の階に行き、そこから窓を破って外に出た。爆発音を聞いたのは、そのすぐ後だ」
「なんで……」
「ん?」
「なんで、お父さん達を連れて来てくれなかったんですか!?」
少女の真剣な眼差しに、博士は胸が詰まる。
二人を救う時間は、あの時点で既に足りなかった。
だがそれを告げた所で、果たしてこの少女が納得してくれるかどうか。
もともと自分達は、彼女の母親を爆弾から救いに向かったのに、結果として父親と母親、両方を死なせてしまった。
それが本当に心苦しい。
「マヤ……」
話す事が出来ない博士の代わりに、先生ロボットがマヤに語り出す。
「私達ハ、全員ヲ救ウツモリデ、アノラボ二向カイマシタ。シカシ、アナタノオ父サン二、拒否サレテシマッタノデス。時間ガ無イ。博士ダケデモ助ケテ上ゲテ欲シイト」
「……」
「恨マレテモイイデス。怒ッテモイイデス。ドンナ二月日ガ流レテモ、悲シミヲ忘レルナンテ出来ナイデショウ。ケレド、オ父サン達ハ、タダ犠牲二ナル為二死ンダノデスカ?」
「……!」
「アナタ二次ヲ託ス為二ソウシタ。私二ハソウ思エルノデス」
そうだ、あの言葉。
お父さん達は犠牲になんてならない。
お前の中で生きている。
って、希望は私の中で生きてるって事?
まだ良く分からない。
でも、ほんのり灯が灯った様な気がする。
「先生……。ありがとう、ございます」
「エエ。デモ今ハ、泣キタイダケ泣キマショウ」
「はい」
マヤは先生ロボットの胸を借りて泣いた。




