宇宙人、なの?
次の日、学校の休み時間。
圭一は友人の一人に呼び止められていた。
「なあ圭一、お前今日、何か変だぞ。授業中もボーッとして、先生の話を聞いてんのか聞いてないのか分かんねえくらいだぜ」
「そ、そう?」
「まあ俺も勉強嫌いだしな~。でもお前らしくねえんじゃね? お前わりと授業真面目に聞く方じゃん」
「わりとって何だよ。わりとって」
「……んで、何があった?」
「え?」
「俺には分かんだよ。お前に何かあったって。友達だろ?」
「中島……」
この少年、中島高志は、圭一のクラスメートであり、いつも放課後一緒に帰る友人の一人だった。
いつだったか、UFOに乗ってみたいと言った、あの彼である。
(そうか、中島だったら……)
昨日圭一が体験した事を、信じてくれるかもしれない。
自分でもまだ完全に信じ切れていない、不思議な少女との出会いを。
「あ、あのさ、中島……」
思い切って圭一が打ち明けようとすると、
キーン、コーン、カーン、コーン。
休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。
次の授業が始まる。
中島は残念そうな顔で席に戻った。
といっても隣の席なんだけど。
スーツを着た年配の男の先生が、教科書の文章を説明しながら黒板に文字を書く。
国語の授業。
この物語のここはこういう意味だと、生徒達に分かりやすく教える。
(今だ)
圭一は黒板の文字をノートに書き写しながら、隙を見て中島に向かって丸めたメモを投げた。
中島は受け取る。
ノートの切れ端に書かれた、圭一が昨日出会った女の子の事。
時間がなくて細詳まで書く事が出来なかったが、おおよその事は伝える事が出来た。
中島は先生の様子を伺いながらメモを返す。
〈了解だ。後は放課後確かめに行こうぜ〉
圭一はかすかに笑った。
そしてその日の学校の授業が終わり放課後。
圭一と中島は友人達と別れ、二人で例の公園に向かった。
「ここって、たまに俺らが散歩に来る公園だよな。あの時、変な音がしたと思ったら、ここでお前が女の子に会ってるなんてな」
「そう。僕はここでマヤと会ったんだ」
「よく確かめに来たもんだ。俺のばあちゃんなんか震えてたんだぞ。俺もあの時は外に出るの止められた」
「はは、母さんとか帰ってなかったから」
「そういう問題か? しかし凄えよな。宇宙人だぜ。ああ、俺、代わって欲しかった」
「はは」
「あ~、羨ましい!」
圭一は苦笑する。
昨日の夜の事を思い出していた。
圭一の家を出て、マヤを送っていた時の事。
マヤを追いかけ、走ってこの公園に着いた瞬間、マヤが言った。
「圭一、今夜はここに泊まるわ」
泊まるって、この公園、何も無い。
子供が遊ぶ為の遊具と砂場と、奥に森があるだけ。
その森を、マヤが気に入ってしまった様だ。
「んと、まずは」
圭一が照らす懐中電灯の明かりの中、マヤのロケットが着陸したという地点にたどり着く。
ポッカリと空いた穴はそのままだ。
「この穴を埋めなきゃね」
「埋めるって、マヤ。こんな大きな穴、僕達だけじゃ……」
「大丈夫よ圭一。これを使うの」
不安になる圭一をよそに、マヤは肩に掛けたバックから何かを取り出した。
透明のカプセルの中に入った砂の様な物。
カプセルの大きさはガチャガチャのカプセルを少し小さくしたくらい。
マヤはカプセルごと穴の上にポーンと投げた。
煙が立ち、カプセルが消える。
「あのカプセルの中身は、急成長する土よ。カプセルは一瞬で自然に帰る素材で出来てるの」
「へ、へえ~」
「これで穴は塞がるわ。後は、私の家ね」
「い、家?」
いくら何でも家だなんて。
無理だ、と圭一が言おうとすると、
トン。
マヤが折り畳んだビニールの布みたいな物を地面の上に置いた。
軽く叩いて刺激を与える。
すると、
ポン。
布が膨らみ、見る見る内にドーム型の家が出来た。
「凄いやマヤ、僕初めて見た!」
圭一は興奮気味に叫ぶ。
「凄いでしょ? 私の星の技術よ」
「私の星……」
今、分かった。
目の前に居る人物は、自分とは違うという事を。
違う星から訪れた宇宙人だという事を。
一番最初に出会った時の彼女の言葉--。
『私は、銀河系の彼方にある一つの星から来たの』
信じなくちゃいけない。
「マヤ、君は本当に宇宙人だったんだね」
一つ一つの言葉を噛みしめる様に、圭一は聞いた。
少しの沈黙の後--。
マヤも、また答えた。
「ええ、そうよ」
星と月と夜の静けさが二人を包む瞬間、時は止まった。
始まりでも、終わりでも無い。
ただここに在るのは二人という存在。
地球人(圭一)と宇宙人という二つの人種だけなのだ。
回り始めた運命の歯車。
そのスピードは前よりも早く、二人に接近しようとしていた。
「……で、圭一。俺達は確かめに来たんだよな」
中島が言う。
マヤが穴を埋めたはずの場所に来た。
「うん。ここにマヤがロケットで着陸して、穴が空いたんだ。その穴を埋める為に、マヤが急成長する土を撒いて……」
「急成長する土ねえ。凄えじゃん。そうか、その穴がちゃんと埋まってるかどうか、俺と確かめに来た訳か。信じようとしたけど、ちゃんと見るまでは、って事だよな」
「うん。けど、穴が無い」
「だって私が昨日の夜、ちゃんと埋めたもの」
声がする。
振り向くと、少女がそこに立っていた。