始まりの記憶その3
大人達に囲まれてしゃがみ込んでいた子供達は、祈る様な目でその光景を眺めていた。
いまだに信じられないと思う子もいただろう。
何故先生が突然変わってしまったのか。
〈敵〉がロボットの回路をハッキングし、操っていると言っても、〈敵〉という存在自体、はっきり自覚している子供は少ないと思われた。
いきなり家に役人が来て、出て行けと言われた時も。
「出て行け? 冗談じゃない!」
「ここは私達の家よ!」
親達は怒っていたけど、役人は厳しかった。
何を言っても、
「お前達が悪い」
の一点張り。
最終的に火で家を燃やされたり、重機で壊されたりした。
疑問を抱いた子供達にも、
「無能だからだ」
「住む価値が無い」
などと言って騙そうとした。
良く考えれば無能だの住む価値が無いだの酷い事を言われていたが、そんな怒りより目の前で家を燃やされたり壊されたりしたショックの方が大きかった。
親達も心配かけない様に、みんなで共同生活をするんだ、としか伝えなかったから。
マヤもそう。
ニュースで国家が占拠されたのを知り、それに両親が反発し、敵に狙われたのだと、後から気付くまでは。
まさにこの、アジトへのハッキング事件が、彼女達の意識を変えるきっかけとなった。
泣きたいほど辛い経験をしたのだから。
先生ロボットは様子を伺っている。
じっと大人達を見つめていた。
ロボットを操っているのだから、敵も当然この状況を把握している事だろう。
ロボットの〈目〉を使って見ているのかもしれない。
そう考えると気持ち悪い。
ロボットにとってもいい迷惑だ。
何とかこの状況を打開しないと。
さて、どうする?
と、お兄さんの治療を受け持っていた医療用ロボットの目が変わった。
まさか。
このロボットもか。
先生ロボットに続いて、医療用ロボットの意識まで敵に奪われた。
このままではヤバい。
子供達どころか、このアジト自体が守れなくなってしまう。
どうすればいい。
その時、
「あ」
男の子が声を出す。
医療用ロボットがメスを握り、ベッドに寝転ぶお兄さんの胸の上に掲げた。
「何を……! っ!」
お兄さんを助けようと飛び出したマヤの父親が反対にメスで切られる。
左肩から胸にかけて赤い跡がついた。
マヤが叫んだ。
「お父さん!」
「心配ないマヤ。大人しく座っていろ」
父親は血が滲む傷跡を見せない様に、後ろを振り向かず言った。
右手でメスを握りかざしたままのロボットの手首を握っている。
ロボットは逆の手で父親に殴りかかった。
バシッ。
ロボットのパンチが父親に当たる直前、半目になってロボットは動きを止めた。
「む?」
一瞬目を閉じていた父親はその目を開ける。
気絶していたお兄さんだ。
お兄さんがスタンガンの電流で、医療用ロボットを刺激してくれたのだ。
回路に影響した為、ハッキング不能になり、ロボットは一時的に機能を停止した。
「お父さん、良かった!」
マヤが父親に駆け寄ろうとする。
その腕を博士が止めた。
まだ近くに先生ロボットがいる。
マヤが動けば、彼女が狙われていただろう。
博士の隣の女性が動いた。
リモコンを取り出し、先生ロボットに向かってボタンをピッと押すと、先生ロボットの動きが収まった。
それを見た博士はハッとする。
「ま、まさか、君は……」
彼女は博士がこのアジトに来てから、ずっと博士の助手として働いていた女性だ。
この先生ロボットや医療用ロボット、ドクターなども博士や科学者仲間と一緒に作った。
だが敵にハッキングされているロボットを、リモコンだけで止めるのはおかしいと博士は感じた。
何より、あんなリモコン、見た事ない。
「はい博士。わたしが国に情報を送りました」
国というのは、今や敵であるマッドサイエンティスト達が治めている国家の事。
博士の側でずっとその技術を勉強していた彼女なら、アジトの情報を敵に流す事も可能だ。
「何故だ? 君なら立派な科学者になれると思って、わたしは信じていたぞ」
「申し訳ありません博士。しかしわたしはその様な立派な人間ではありません。国からあなた方の監視を命じられ、アジトへ潜入した者です」
「つまりわたし達が王の命で消息を立った後に、足取りを掴んで見張っていた敵のスパイだったと?」
「はい。死んだと思われていたあなた方を探すのは大変でした。しかし家を失った者達の中に博士と知り合いの者が居ると知って、よもやと思い接触してみたのです」
「それでこのアジトにたどり着いたと? だがどうにも府に落ちない。何故わたしをすぐに始末しなかった? 国の情報を握っているかもしれないわたしは、敵にとっても邪魔なはずだろう」
「あなたを見つけた時、すぐ国に連絡しました。けれど、殺すより情報を探れ。我々の有利になる情報が手に入るかもしれないと言われました」
「そうか。迂闊だったな。君の正体を見抜けなかった」
「いえ。それももうおしまいです」
女性の言葉が途切れる。
うつむいて、何かを堪えている様だ。
深く息を吸い込むと、決意した様に顔を上げた。
「博士、わたしはあなた方と過ごすうちに、ここが、大好きになっていました」
女性が自分の口に手を近づけた。
博士が止めようとするが、間に合わない。
毒薬だ。
女性は一気に口に含んだ。
吐血する。
博士が抱いた。
「ごめん、なさい……。こんな事になってしまって……。子供達も……、怖い目に合わせ、て……」
「もう、喋るな。苦しいだろう」
「いいえ、博士……。国は情報が得られなかったので、このアジトごと、あなた方を消そうとしています。人質……、が、別の部屋に……」
「なっ」
女性のリングを通じて見た映像に、マヤの父親始め全員が衝撃を受けた。
部屋の中央に椅子。
そこに縛られた女性が座っている。
部屋の壁には爆弾。
椅子に座っている女性は、マヤの母親だった。
「あ、あなた……」
母親は弱々しく、マヤの父親に呼び掛けた。




