始まりの記憶
走っているうちにまた涙が出てきた。
我慢しようと思ったのに。
圭一も、そのご両親も、中島君の家族も、仲良くなればなるほど、近しい存在となっていた。
惑星イリアでの仲間達との絆と同じように。
地球での新しい仲間。
実際、圭一の母親は、わたし達の事を地球の親だと思っていいよと言ってくれた。
嬉しかった。
マヤの両親が亡くなったのは、マヤが八才の時。
五年前、朝から雨が降っていた憂鬱な秋の日だった。
マヤはレジスタンスのアジトともいえる隠れ家で、友人と勉強を教わっていた。
先生はAI機能を持つ人間の女性そっくりのロボット。
アジトは一見すると学校の様に見え、この隠れ家でレジスタンスの仲間が共同生活を送っていた。
ロボットも人間も仲良く一緒。
学校の外観にする事で、敵の目をくらますという利点がある。
それに森の中だった為、目立たない。
マヤはあくびをしながら外の雨を眺めた。
(あ~。早く雨、止まないかな)
この勉強時間が終われば30分の休憩が取れる。
その時天気が回復すれば、外でみんなでボール遊びをする予定だった。
まだ八才の幼い子供だったマヤには、この建物がレジスタンスのアジトだという自覚はあまり無かった。
ただ悪い人達によって家を失った家族が集まり、一緒に住んでいる所だと思っていた。
当時、戦火も今みたいに広がってはいない。
科学にのめり込んだマッドサイエンティストが、自然を愛する国のトップに嫌悪感を覚え、その力で好きな事が出来ると言葉巧みに賛同させた犯罪者達達を使いクーデターを企て、ついに国家を占拠したとニュースで見たが、それがこんな大事になるとは、思いもよらなかった。
その時国家の参謀として働いていたのが、今マヤ達のレジスタンスに所属している博士達だ。
彼らは国を守る為に戦ったが、力及ばず敗れてしまった。
王は博士達を密かに逃がし、自分は敵の矢面に立ち話し合いを決行したものの、殺されて群衆の前に晒されてしまった。
マッドサイエンティスト達は、
「これからは我々がこの国を支配する。これからは科学の時代だ。自然など要らぬ」
と宣言し、それに異を唱えた人々から、まずは住む所を奪った。
住む所だけだったのは、そういう優しさを見せ、徐々に自分達の所に引き込むつもりだったのだろう。
あの時は本気で戦争をしようなどと、敵も考えていなかったのかもしれない。
だが命はあっても住む所が無くなれば、一気に生活は大変になるものだ。
マヤの父親は正義感が強く、母親も自然が好きで穏やかな人だった。
だから力で国家を支配した敵を許せず、もともと知り合いだった博士達と合流してこのアジトを作った。
だんだん人も増えて来て、学校みたいに大きくなったが。
みんな困っている。
なら協力して助け合おう。
が、その日を境に、運命は大きなうねりを迎えた。
ギー。
いきなり、先生であるロボットの言葉が途切れ停止した。
マヤ達子供達の頭は一瞬「?」ってなるが、とりあえず側に駆けつけた。
「先生? ねえ、先生?」
いつもは人間と同じように瞳が動きまばたきもするのだが、その時は何も反応が無かった。
口も半開きで止まったまま。
肩を叩いても撫でても動きはしない。
「……???」
どうしたんだろう。
マヤ達が不思議がっていると、廊下を走る音が聞こえた。
「みんな、逃げるんだ。ここのコンピューターがハッキングされた」
ドアを開けて飛び込んで来たのは、マヤ達より十才年上のお兄さん。
アジトの指令室のコンピューターが敵に狙われ、先生であるAIロボットの意識まで奪われたというのだ。
どうして?
ちゃんとハッキング対策はしていたはず。
敵はそれ以上の技術を持っているのか。
「気をつけろ。先生ロボットが……」
もともと子供達に勉強を教える為のアンドロイドであり、兵器としての機能は持っていない。
でも、敵に奪われたとなれば。
ガシャン。
顔がマヤの方を向く。
拳を握り歩いて来た。
風を切るパンチ。
「危ない!」
お兄さんが抱える様にマヤを庇う。
子供達は悲鳴を上げながら部屋を出た。
これから、どうなっちゃうの?
パニックになりながらも、大人と合流する様に走った。




