宇宙へ帰る時
「……?」
中島はその人物を確認した時、一瞬困惑した様な顔を見せた。
まだ戻って来るには早すぎる。
今日は久しぶりに二人での外出だという事で、ウキウキして出掛けて行ったはずだ。
「高志、無事だったか」
「父さん……」
そう。
その人物は中島のお父さん。
今度は偽物でも何でもない。
正真正銘の本物だ。
息子である中島が認めているんだから。
「な、何で? 今日は昼過ぎまでデパートに行ってるはずじゃ……」
「ああ。母さんと二人楽しませてもらったよ。お前の土産をどれにしようかと思って探している最中に、妙な胸騒ぎに襲われてな。急ぎ帰って来たんだ」
「じゃあ、母さんも?」
「ええ、わたしもここに居るわ」
親子の絆というべきか。
息子の危機を察知し、慌てて戻って来る。
長身の母親が顔を出した。
子供達はミナの身体を隠す様に横並びをする。
「隠そうとしても無駄だよ。足の隙間から見えているし。まったく、事故とはいえそんな物が家にあっては、いい気分はしないな」
「……えっ?」
「圭一君、マヤちゃん。今日は高志の所に遊びに来た、という訳じゃなさそうだね。君達にも事情があるだろうが、まずはその女性の遺体を何とかしよう。……家内が、怖がるのでね」
「はっ、はい。ごめんなさい」
マヤが荷物からペンライトを探し出す。
以前ひまわり畑に圭一とデートをした時、待ち合わせした駅でその効力を披露したペンライトだ。
光をミナの身体に当てる。
ミナの身体は携帯電話の大きさくらいまで縮んだ。
マヤはその縮んだミナを丁寧にハンカチに包んでバックへ。
「……!?」
初めて見た中島はその力に驚いていたようだったが、何故か彼の両親はびっくりもしていなかった。
それ以前に圭一とマヤにはある疑問がある。
彼らがミナの事を事故と断言した事だ。
何故、冷静でいられる。
普通はパニックになったり、警察を呼んだりしないだろうか。
自分の家に人が倒れていたら、なおさら。
圭一と中島のように気持ち悪くなる気配も無い。
それに、〈遺体〉とも言っている。
これは何か知っていると考えるより他はない。
マヤはゴクリと唾を飲んだ。
状況によっては、今すぐここから出て行かないといけないかもしれない。
バックの紐を握った。
「慌てる事は無いよマヤちゃん。ゆっくりと、話をしようか」
中島の父親がマヤに近づいて来る。
マヤの顔が青くなった。
中島が間に入る。
「と、父さん。マヤちゃんを責めないで」
「別に責めていないわ高志。圭一君もよ。二人は、あなたを助けてくれたんでしょ?」
「あ、うん。え?」
「わたし達知ってるの。マヤちゃんが惑星イリアって星から来た宇宙人だって事」
「どええっ」
中島は奇妙な声を上げて一歩後ろに下がった。
どうして?
両親には何も伝えてないはず。
圭一とマヤを見てみたけど、二人とも首を振るだけで答える事は出来なかった。
「無理もない。高志は何も言わないし、わたし達もマヤちゃんはただの友達だと思っていた。だが疑問もあった。高志や圭一君と同じくらいの年だと言うのに、何故一人なのか。ご両親はどうなさったのか。その事について高志が喋ってくれないのも不思議だった。学校での出来事や圭一君の事は、だいたい話してくれるのにね」
「……」
「だから尋ねてみたんだよ。わたし達より事情を知っていそうな、あの方達にね」
「まさか……」
中島の父親の視線がリビング外の廊下に向く。
ドアは開いていた。
誰かの足音が聞こえる。
それも複数。
圭一は、目を見開いた。
「父さん、母さん……」
「圭一、マヤちゃん。ここにも〈敵〉が現れたらしいね。無事で良かった」
「父さん達が話したの?」
「そうよ。圭一」
両親は悪気もなさそうに頷く。
「どうして?」
「気持ちが分かるから。親は子供の事を心配するものだよ。中島君のご両親が、中島君が隠し事をしているんじゃないかと、気になさっていたから」
「でも……」
「マヤちゃん。君には悪いと思うよ。けど、わたし達の気持ちも分かって欲しい」
マヤはうつむくだけ。
中島が言った。
「そ、それで父さん。何故俺達が襲われていると分かったんだ?」
「ああ、それは……」
中島の父親はリビングの天井を指さす。
カメラがぶら下げてあった。
「お前の部屋とこの部屋の天井に、隠しカメラを取り付けさせてもらった。映像はわたしのスマホでも確認する事が出来る。泥棒対策にもなるし、お前の為だ」
「いつの間に。でも」
「確かに。お前にもプライベートがあると言いたいんだろう? が、そんな話を聞いた以上、親として子供を守るのは当然だ。最初は信じられない話だったがな」
「あ、あの……」
マヤが口を開く。
「済みません。高志君と圭一を巻き込んでしまって。あの、私……」
「マヤちゃん」
静かに、少し低い声で、中島の父親が注意した。
「絵のモデルになってもらったし、わたし達も高志の友人だと思ったから仲良くした。だが……」
「……」
「君には、高志から離れてもらう」
「……!!」
覚悟していた事。
ご両親が中島君を思う気持ちに偽りは無い。
ならそう思うのも当然だろう。
〈地球人〉の彼らにとってこっちは、得体の知れない〈宇宙人〉なのだから。
敵を引き寄せた危険人物と思われても仕方ない。
ポロッ。
涙が流れる。
宇宙へ帰る時が来たのかもしれない。
「マヤ……」
圭一がマヤを慰めようとする。
彼女は圭一を見て涙を拭い、わざと笑顔を作ると、
「皆さん。お世話になりました」
ペコッと頭を下げて、急ぎ中島の家から走り去った。




