絶望の反撃
圭一達には、何も出来なかった。
ただ一人、人が死んでいくのを、目の前で見る事になってしまうなんて。
中島も、身体が震えてる。
気分が悪い。
マヤも幾度か経験したであろう人の死だ。
こんな、吐き気がするほどなのか。
それがあの衝撃的な事実を聞いた事による反応なのかも分からない。
いや、多分、それも原因の一つだろう。
〈敵〉からの通信が切れたミナのリング。
マヤはそのリングをじっと見つめていた。
怒りとも悲しみとも取れない目で。
声をかけようともかけられない。
圭一と中島自身も呆然として、動けないのだ。
何かを考えるという事すら考えつかない。
かといってパニックになって叫んでいる訳でもない。
落ち着いているというより、頭が真っ白になっている。
無になっている状態というのが近いかもしれない。
ガタッ。
音がする。
圭一、中島、マヤ三人の他にこのリビングに居るのは……。
マヤがいち早く反応した。
冷たくなりかけているミナの身体をゆっくり床に寝かせ、ロボットの腕を掴んだ。
間一髪、ビームを放たれなくて済む。
「マヤ!」
圭一が顔を上げる。
マヤはロボットの腕を握ったまま右足を引っかけ、足払いを仕掛けた。
だが、
「……く」
ロボットは転ばない。
それどころか逆にマヤが横腹を蹴られる。
「うっ」
ロボットの腕を掴んでいた指も離れ、彼女は床に転がる。
テーブルの脚に頭を打つ所だった。
圭一と中島が慌てて駆け寄る。
「マヤちゃん、大丈夫?」
「しっかりして」
圭一の腕に抱えられる。
さすがはロボットの蹴り。
横腹が痛い。
痛む箇所を押さえ苦悶の表情を浮かべるマヤを、圭一達は心配する。
「ここ? マヤ」
「……うん。大丈夫よ圭一。それより……」
「……僕達の事?」
目の前でいきなり人の死を体験してしまった彼らの体調と恐怖を案じているのだ。
自分が苦しんでいる時に、この子は……。
「ありがとうマヤ。平気、って訳じゃないけど、今はあのロボットを何とかしなきゃって感じだから」
「そう。君が飛ばされたの見たら、気持ち悪さなんて忘れた。それにその、女性の願い事。愛する人を、救ってあげたいじゃん」
「圭一……。中島君……。」
優しい男の子達。
マヤは笑顔で励ましてくれる彼らに感謝した。
そう。
頑張らなきゃ。
ミナさんの為にも。
今までロボットに改造させられたたくさんの魂の為にも。
戦争を止めなきゃ。
繰り返してはいけない、こんな事。
マヤは起きた。
ロボットは近くに居る。
まずい。
腕が光っている。
マヤは咄嗟に手鏡を構えた。
バリッ。
手鏡にビームが直撃。
もしかして跳ね返るのかと思ったら、
スッ。
ビームが吸い込まれた。
圭一達は目を疑う。
一体何が起きたんだ。
「ま、マヤ、それは……」
「えっ? 圭一。これはビームを吸い込む手鏡なのよ」
「……え?」
「簡単に言えば、これで分解してるのよ」
「へ、へえ」
「林でのロボットとの戦いの時は用意出来なかったから、今日はあらかじめ、ね」
「そ、そうだったんだ」
改めて、彼女達の星の技術に感動する。
遺体を無理やりロボットに改造する技術じゃなくて。
ギー。
ロボットが、また構えた。
中島は後ろに回り込み、走る。
リビングの奥はキッチンだ。
壁で仕切られてはいないので、広々としている。
「確かここに……」
引き出しを引く。
菜箸を取り出した。
「マヤちゃん、これ使って!」
マヤに手渡す。
マヤは笑顔で受け取った。
「ありがとう、中島君」
これを使わせてもらって、ロボットを止める。
圭一がロボットの腕を押さえていた。
さっきのマヤの行動。
ロボットの腕を掴んでいた。
ロボットがビームを放たなかった事から、こうするといいかなと思ったのだ。
それはバッチリ。
やはり腕は光らない。
「圭一、頭伏せて!」
マヤが菜箸を持って走る。
圭一は言われた通り下を向いた。
「えいっ!」
ロボットの胸の隙間。
光る部分。
そこを狙ってマヤが菜箸を当てる。
お見事。
ロボットは消滅した。
「中島君ありがとう。あなたのおかげよ」
「いやあ、そんな……」
褒められて中島は頭を掻いて照れる。
「洗って返すね。それと……。ミナさんの身体を運び出さなくちゃ」
「ああ、そうしてくれるかい?」
「……?」
振り向いた三人。
リビング入り口のドアに、男の人が立っていた。




